■(資料)「原発事故を過小評価、原発再稼働・新設に反対表明も必要」科学者会議が県に意見書(2014年2月28日 共産党滋賀HP

 日本科学者会議滋賀支部の原子力災害専門委員会は28日、滋賀県が原発事故を想定してまとめた県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定案に、「琵琶湖や住民が放射能で汚染される想定は過小で、全県民の避難計画になっていない。原発の再稼働などに反対する見解を表明することが必要」と指摘し、見直しを求める意見書を知事あてに提出しました。意見書の全文を紹介します。

 地域防災計画の改定では、県は県民の意見を募集(2月末で終了)し、3月下旬に県防災会議で決定する計画です。




                              2014年2月28日
滋賀県知事
嘉田 由紀子様

   原子力災害に係る滋賀県広域避難計画(案)に対する意見

                    日本科学者会議滋賀支部原子力災害専門委員会
                       委員長 西山勝夫(滋賀医科大学名誉教授)

1.原子力災害に係る滋賀県広域避難計画(案)(以下、避難計画)における避難先の事前調整を行う対象地域および人口は過小である。全県が県域を超える広域避難が必要となる場合を前提にした広域避難計画体制をすべきである。

 その理由は、本委員会の滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定案についての意見の1.及び2.(1)~(5)で述べた通り、改定案の滋賀県版UPZは過小であり、見直す必要があるからである。

2.広域避難体制(避難計画p2-5:第2章)、避難手段および避難経路(避難計画p5-8=第3章)、スクリーニングおよび除染の実施体制(避難計画p8-10=第4章)、安定ヨウ素剤の予防服用体制の整備(避難計画p10-12=第5章)、避難所の設置運営(避難計画p12-3‥第6章)、避難所の設置運営(避難計画p13-4=第7章)、避難長期化への対応(避難計画p13=第8章)、要配慮者の広域避難(避難計画p13-4:第9章)には、全県にわたって県域を超える広域避難が必要となる場合を前提にした計画が必要である。

3.滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定案(以下改定案)において行政機関の業務継続に係る措置(改訂案第3章緊急事態応急対策第12節行政機関の業務継続に係る措置)があげられ、基本方針(避難計画pl:第1章)で地域コミュニティの維持があげられているにもかかわらず、滋賀県版UPZに含まれている高島市役所や市役所支所の避難計画がない。地域コミュニティの維持の責務を第一義的に負うのは自治体であるから、自治体の避難計画が必要である。

                                          以上




                                  2014年2月28日
滋賀県知事
嘉田 由紀子様

 滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定案についての意見

                   日本科学者会議滋賀支部原子力災害専門委員会
                      委員長 西山勝夫(滋賀医科大学名誉教授)

1.はじめに

 現に福井県に原子力発電所が存在する状況下にあっては、それら原発が稼働していても、していなくても、過酷事故が発生する可能性があり、滋賀県は事故が発生した場合に備えて万全の対策を準備しなければならない。したがって、滋賀県が2011年以来、『滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)』を毎年見直し、その充実に努め、公開の検討の場を設けていることを評価する。しかし、以下に指摘する幾つかの点において問題がある。これらを解決した上で、平成25年度滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)が決定されるよう要請する。

2.『平成25年度滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定(案)』の問題点

(1)想定の基本

 『平成25年度滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の改定(案)』(以下、案)における前提となる事態の想定等(案p8:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第2 前提となる事態の想定等)は過小である。

 案では、福井県の各原子力発電所から放出されると想定されている放射性物質の量(以下、想定放出量)は、平成23年度の改定以来一貫して、東京電力福島第一原子力発電所で事故に伴ってヨウ素131の大気放出量の最も多かったと推定された2011年3月15日の1基の原子炉の放出量(以下、推定放出量)を基にし、同発電所以上の事故は起こりえないとしている。

 しかし、案において、「東京電力(株)福島第一原子力発電所における事故の原因については、現在、国の原子力規制委員会において究明されているところであり」(案p8-9 第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第2 前提となる事態の想定等 1)と述べられているように、原因究明への着手はおろか、事故は収束の目処すら立たず、同発電所以上の事故は起こりえないなどといえる立証などは全くなされていない。

 また、東京電力福島第一原子力発電所には複数基の原子炉があり、程度の差こそあれそれぞれが制御不能になり、波状的にではあるが放射性物質を放出した。したがって、想定放出量は1原子力発電所の放出量としては過小である。

 さらに、福井県には若狭湾に面して6つの原子力事業所(4つの原子力発電所と2つの研究開発センター)があり、計15基の原子炉が密集しているもかかわらず、これら全原子炉が制御不能という事態を想定していない。

 県は、かつての年度における検討会議において、仮定がなければ、シミュレーションも計画の立案もできないと述べた。そうであるならば、前提条件とはそのようなものであることを明らかにしておくべきである。そして、原子力災害に、東日本大震災の教訓をいかし、想定外ということではなしに、備えるというのであれば、福井県の原子力事業所が地震・津波等の原因で事故を起す場合には、15基すべての原子炉において推定放出量以上の事故が発生するという事態を想定した計画も必要なことに言及し、その計画に速やかに着手すべきである。

(2)セシウム137およびセシウム134に関する前提

 案では、セシウム137およびセシウム134について前提となる事態の想定が欠落している(案p8-9 第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第2 前提となる事態の想定等)。

 琵琶湖への影響予測(p14: 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4 琵琶湖への影響予測 ①および②)においてセシウム137およびセシウム134について前提とした放出量(6時間かけて放出)が記されているが、前提となる事態の想定等における放射性物質及び放出量の項(案p8-9:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第2 前提となる事態の想定等(2)放出量)において、セシウム137およびセシウム134の記載がなく、前提とした放出量の根拠が明らかでない。

(3)滋賀県版UPZ、滋賀県版PAA

 案では滋賀県のシミュレーションの結果(以下、シミュレーション結果)と予防的防護措置を準備する区域(PAZ)、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)、プルーム通過時の放射性ヨウ素による甲状腺被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA)及び、「国際原子力機関:International Atomic Energy Agency(以下『IAEA』という)が示す安定ヨウ素剤予防服用の判断基準である甲状腺被ばく等価線量50mSv以上となる地域」の関係が明記されていない。

 予想される影響等(案pl0-1:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第3 予測される影響等)において「原子力規制委員会が示す「原子力災害対策指針」では、PAZ、UPZ、PPAは検討が示されている」と記されているように、これらは定められてはいない。

 以降の記述との一貫性を保障するためにも、「シミュレーション結果とIAEAの基準に基づき、滋賀県版UPZ、滋賀県版PAAを定義し、判定する」という趣旨が、盛り込まれるべきである。

(4)放射性ヨウ素の琵琶湖水への影響

 案ではヨウ素131、放射性ヨウ素(以下放射性ヨウ素)の琵琶湖水への影響(案p14-5:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4琵琶湖への影響予測 3放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【琵琶湖水への影響】、第3回検討会議配布資料1、2)の評価・判定が過小である。

 琵琶湖水への影響の基準について案は、放射性ヨウ素300Bq/kg、放射性セシウム200Bq/kgしか検討していない。ところが乳児の水道水摂取制限にかかわる放射性ヨウ素の基準は100Bq/kg以下(第3回検討会議配布資料3、p7、厚生労働省健康局健水発0321第1号2011年3月21日。以下、健水基準、なお、成人についての取水制限はOIL6と同じ)、通常時の飲料水基準10Bq/kg以下である。これらの基準になるまでの日数などもシミュレーション結果により予測できているのであるから、評価・判定結果を公表し、対策の計画にいかすべきである。

(5)放射性セシウムの影響

 案では、予想される影響等(案p10-3:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等第3予測される影響等)において、セシウム137およびセシウム134に関する地上1mで計測した場合の空間放射線量率、外部被ばくによる実効線量が明らかにされていない。

 ①放射性セシウムの対策

 セシウム137およびセシウム134の地表面への沈着の予測結果(案p14:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4 琵琶湖への影響予測 3 放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【地表面への沈着】)により、300万Bq/kgを超える市町があることが明らかにされた。それにもかかわらず、その対策について案(案第3章 緊急事態応急対策および第4章 原子力災害中長期対策第4節放射性物質による環境汚染への対処)では言及されていない。

 ②放射性セシウムの地表面への沈着

 セシウム137およびセシウム134の地表面への沈着の予測結果(案p14:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等  第4 琵琶湖への影響予測 3 放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【地表面への沈着】)については300万Bq/kg のみに限定した予測結果しか示されていない。しかし、セシウム総量に関する農水省の作付制限の基準(5,000Bq/kg)等があるのであるから、セシウムに関して、300万Bq/kg のみに限定することなく、分布、各基準に該当する市町、最大距離を明らかにし、対策の計画にいかすべきである。

 ③放射性セシウムの地上への影響

 希ガスについては、「外部被ばくによる実効線量は10mSvを大きく下回り、緊急の防護措置を講ずべき水準にはないものと予測される」としているが、セシウム137およびセシウム134についても、地表面への沈着、琵琶湖への影響の予測結果の概要(p14-5:総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4琵琶湖への影響予測2①および②)を示すだけではなく、陸上の空間放射線量率、外部被ばくによる実効線量の水準や分布を明らかにすべきである。

(6)放射性ヨウ素と放射性セシウムの総合的検討

 案は放射性ヨウ素と放射性セシウムを個別に検討しているが、両者を総合した放射線量の影響を検討していない。シミュレーション結果から予測される陸上における空間放射線量率、外部被ばくによる実効線量を諸基準に参照した計画がなされていない。

 ①地上への影響

 原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」において定められている防護措置基準(案p123-5:第3章 緊急事態応急対策 第5節 避難、屋内退避等の防護措置 第2防護措置基準)中のOIL1(住民等を数時間内に避難や屋内退避等させるための基準)、OIL2(地域生産物の摂取を制限するとともに、住民等を1週間程度内に一時移転させるための基準)、OIL3(飲食物にかかわるスクリーニング基準)は、放射性物質を区別することなく、地上1m で計測した場合の空間放射線量率(μSv/h)で表されている。また、避難指示区域(内閣府)の目安とされる年間空間積算線量20mSv、除染の基本方針(2011年11月11日閣議決定)において目指すべき追加年間空間被ばく線量1mSv以下が示されている。したがって、ヨウ素とセシウムを区別することなく両者を総合したシミュレーションによって得られた空間線量率や年間空間積算線量の分布、各基準に該当する市町、最大距離についても公表し、対策の計画にいかすべきである。

 ②琵琶湖水への影響

 琵琶湖水への影響(案p14-5:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4 琵琶湖への影響予測 3放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【琵琶湖水への影響】、第3回検討会議配布資料1、2)についても、通常時の飲料水基準10Bq/kg以下は放射性物質を区別することなく定められているのであるから、両者を総合した放射線量で通常時の飲料水基準になるまでの日数を公表し、対策の計画にいかすべきである。

(7)より大きい放出量の想定

 各域の放射性物質による汚染のシミュレーションの結果は、想定した放射性物質の放出量にほぼ比例する。放出量が2倍あるいは10倍になれば、避難を必要とする地域も安定ヨウ素剤の予防服用が必要となる地域も、OIL1、OIL2、OIL3を超える地域、琵琶湖の水がOIL6、健水基準、通常時の飲料水基準を超える時間も水域も2倍あるいは10倍になる。

 上述(1)のように前提とした想定放出量が小さいのであるから、シミュレーション結果を適用するに際しては、実際にはシミュレーション結果の2倍あるいは10倍となる場合もありうることを想定すべきである。

 以上を考慮して、今後、滋賀県版UPZ、滋賀県版PAAを見直すこと、計画を見直し、充実することを補足すべきである。

(8)全県の住民、在県者についての屋内避難

 案(p13:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第3予測される影響等)は、放射性ヨウ素のみのシミュレーション結果によっても、「半径30~50kmの範囲で、甲状腺被ばく等価線量は100mSv~500mSv、それ以外の滋賀県ほぼ全域で甲状腺被ばく等価線量は50mSv~100mSvと予測され、住民は、自宅等への屋内避難を考慮する必要があると判断される」という影響を予測している。すなわち、何はともあれ全県の住民、在県者が、屋内避難を直ちに速やかに行えることが不可欠な影響が予測されるということである。

 それにもかかわらず、案(第2章災害事前対策、第3章緊急事態応急対策)では、全県の住民、在県者についての屋内避難の実効性のある遺漏のない具体策が計画されていない。

(9)琵琶湖水への影響と対策

 琵琶湖水への放射能汚染のシミュレーション結果(案p14-5:第1章総則第5節計画の基礎とするべき災害の想定等第4琵琶湖への影響予測 3放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【琵琶湖水への影響】、第3回検討会議配布資料1、2)によれば、琵琶湖の表層(水深0~5m)において、OIL6の放射性セシウム200Bq/kgを超過する水域は長い場合で10日前後残る可能性が示され、OIL6の放射性ヨウ素300Bq/kgを超過する水域は10日程度で解消された。すなわち10日程度で、通常時の飲料水基準10Bq/kgの汚染が1年続いた場合に相当する程度の放射線量に達する水域がある。

 第3回検討会議でも、個人保管分も含めて3日分しか飲料水を確保できていないという県の現状報告との関連で計画について議論がなされた。それにもかかわらず、同シミュレーション結果をいかした、飲料水確保や飲食物の摂取制限等(案p144-5:第3章緊急事態応急対策第7節飲食物の摂取制限等)についての具体的計画が示されていない。

 さらに、通常時の飲料水基準10Bq/kg以下になるまでに10日間以上の長期にわたるにもかかわらず、上述(4)で明らかなように、予想される影響等において、その期間が欠落していることにより、通常時の飲料水基準10Bq/kg以下になるまでの計画(案p52-5:第4章原子力災害中長期対策第4節放射性物質による環境汚染への対処)も看過されている。

 また、前述のように、放射性物質の放出量が増えれば、シミュレーション結果も2倍、10倍となり、琵琶湖全域が飲料水基準を超えうるので、中長期的に安全性が確保されるのかという疑問は解明されていない(案p52-5:第4章原子力災害中長期対策第4節放射性物質による環境汚染への対処)。

(10)環境放射線モニタリング

 案における環境放射線モニタリング(案p52-5:第2章災害事前対策第6節災害応急体制の整備(全部局)第9モニタリング体制等環境放射線モニタリング)は、地上からの放射線を遮蔽し、空間の放射線量のみの測定となっている。しかし、土壌汚染も予測されている(案p14:第1章 総則 第5節 計画の基礎とするべき災害の想定等 第4琵琶湖への影響予測 3 放射性物質の琵琶湖への影響予測を行った結果【地表面への沈着】)のであるから、空間放射線の測定にあたっては地上からの放射線も対象とすることが盛り込まれるべきである。

3.中長期対策

 案の内容は事故発生後24時間の緊急事態応急対策が主であり、中長期対策(案 p163-8:第4章原子力災害中長期対策)は、具体的でなく、不十分である。避難者の中長期的な受け入れ体制、琵琶湖の生態系への影響、農林水産物や食料の汚染対策、土壌汚染対策、暮らしや産業への影響などの具体的検討を早急に開始すべきである。

4.原子力事業所の再稼働・新設

 放射性プルーム(案 p19:第1章 総則 第8節放射性ブルーム通過時の被ばくの影響を避けるための防護措置、同 p72-3:第11節 救助・救急、医療および防護資機材等の整備(知事直轄組織、健康福祉部) 第4 安定ヨウ素剤の予防服用体制の整備、同p139-40:第3章 緊急事態応急対策 第5節避難、屋内退避等の防護措置(知事直轄組織、総合政策部、琵琶湖環境部、健康福祉部、商工観光労働部、土木交通部、教育委員会、警察本部)第8 安定ヨウ素剤の予防服用)は、比較的風速が遅い(~1m/S)日でも、ほぼ24時間で滋賀県を通り過ぎる。プルームの道筋に居る人びとは、その到達前に避難するのが望ましいが、これらの完全な実行は現実には困難であろう。安定ヨウ素剤の服用・屋内への避難など、人命に対する影響をいささかでも軽減する措置がとれたとしても、滋賀県民は放射線の影響から完全に逃れられるわけではない。まして琵琶湖や山野・農地・家屋などに対する影響は防ぎようがない。一旦事故が起これば滋賀県民の多数がその命を損ない、その財産を失うことになるのは明白である。滋賀県は原子力災害に対する準備を整えるだけでなく、福井県下における原子力事業所の再稼働・新設に反対であることを明確にすべきである。

                                         以上