県民のいのちと暮らし最優先に「滋賀県流域治水の推進に関する条例」は大幅修正を
              2013年11月15日   日本共産党滋賀県委員会
 
 近年、集中豪雨や大型台風などが多発し、住民の命と暮らしを守ることは緊急の課題です。滋賀県が「県流域治水の推進に関する条例」案を提案し、「全国初の流域治水条例」だと報じられています。しかし県条例案は、ダムを容認している弱点や、「浸水危険区域」の住民に宅地かさ上げなどを罰則付きで求めるなど、大きな住民負担を盛り込んでいます。また検討すべき課題も残しています。条例案は「200年に1度の豪雨に対応する」という、きわめて過大な災害想定を前提にしています。かつて県が100年規模の降雨に備える河川整備計画をたてていたとき、わたしたちは過大な計画を「ダムありき」の根拠にしていると批判し、50年に1度程度の適正規模に修正すれば、ダムは必要がないと指摘し、その後、県営ダムの中止、河川整備計画の見直しがすすみました。ダム問題での提言は、今も、わたしたちの流域治水の提言の根幹です。県は条例案の無理や弱点を大幅に修正し、住民の合意と納得が得られる条例案とし、総合的な防災対策の一環として、直ちに洪水対策にとりくむようにすべきです。
 
●ダム依存はきっぱり断念を
 
 近年の豪雨災害の多発は、従来のダム依存や洪水を河川内にとじこめる対策では限界があることを示しています。流域全体で洪水を安全に受け止める流域治水の方向に切り替えることは必要であり、緊急に求められていることです。
 しかし県の流域治水条例案は、その基本となる「県流域治水基本計画」に「ダムを含む」と記したままです。県議会でも自民党が「ダムを条例案に位置づけよ」と求め、県も「ダムを否定していない」と答えることを繰り返しています。これはダムが一般的に必要かどうかという議論ではなく、明確に大戸川や丹生ダムなどの復活をねらった逆流です。
 ダムは、自然環境を破壊し、そのうえ巨額の建設費用がかかり、利水目的などと組み合わせても、「ダムによる利益」は社会的に認められなくなりました。
 そのうえ、「ダムができれば安全」という「安全神話」は、ダム建設のための長い期間、河川改修が放置され、二線堤やかすみ堤など洪水被害軽減施設の保全にも、住民の洪水体験の継承にも、住民の水防組織の維持にも困難をもたらしました。災害時の避難呼びかけに応じる住民は大幅に減少するという事態が進行し、洪水の危険がある地域にも宅地や住宅開発が許可されてきました。
 しかしダムは計画水量を超える豪雨に無力です。そのさいに、住民に大きな被害をもたらす可能性は増大させられてきました。ダム依存からは、きっぱりと脱却すべきです。
 
●「危険区域」を適正にし、ただちにできる計画に
 
 条例案は、宅地のかさ上げなどを義務づける「浸水危険区域」を「200年に1度の豪雨で3b以上の浸水が起きる」区域としています。現在の県の河川整備計画(10年から30年に1度の降雨に対応)に比べ、けた外れの大きさです。この区域の住宅や社会福祉施設などは、近くに避難所がない場合などには、建替えのさいに宅地かさあげなどを義務づけています。違反は20万円以下の罰金です。
 この設定は、県が「地先の安全度」のシミュレーションで「浸水家屋数がそれ以上広がらない上限の災害規模」として決め、500年、1000年に1度という「超豪雨」の被害とも差がないものです。
 この設定は過大ではないか、という疑問に、県は「人命第一に、最大限の被害に対応することが最低限の義務」と、問答無用の態度をとっています。しかし条例案は、危険区域の住民の避難などを県の義務だと定めているのではなく、かさ上げなどの住民負担や、「避難する義務」も住民にある、と定めたものです。これを「(県の)最低限の義務」というのは、住民に「自助」を押しつけているだけです。
 条例案では、建替えしない住宅はそのまま住み続けられます。これでは住宅改修できる人と、できない人との間に命の格差をつけることになりかねません。洪水のさいの強い水の流れや、台風、地震などにも、宅地かさ上げは有効だろうか、という疑問もあります。「浸水危険区域」対策は、行政が責任を持って、住民に警戒を呼びかけ、避難態勢を強化する方が現実的です。
 条例案の過度に大きな想定を見直せば、対策は現実的で、早急に実施可能な規模にできます。県のシミュレーションによると、200年に1度の豪雨対応では1070戸の住宅が対象となります。これを100年の規模にすれば浸水面積はおよそ半分、被害戸数は3分の1以下、50年規模ならさらに半分になります。200年という、6世代にもわたり、だれも経験したことがないような大災害に備えようといって、対象区域の住民に大きな負担を課すのは行き過ぎです。
 
●河川整備計画を急ぎ、総合的な対策を
 
 防災は総合的な対策です。住宅や農地への浸水があっても大きな被害としない第2、第3の洪水制御施設が必要です。宅地のかさ上げだけで対応しようとするのは無理があります。さまざまな災害について、予測、予防、避難、救援、復興にわたる総合防災対策の一部として、流域治水を位置づけるべきです。
 洪水対策でいえば、今年9月の台風18号による豪雨災害で、被災者は河川改修が放置されてきたことに怒りの声を上げています。いっぽうダムが中止・凍結されたことにより、河川改修が一定おこなわれた地域では、被害が比較的小規模だったことと対照的でした。被害の早急な復旧とともに、河川整備計画の実施を急ぎ、引き続き河川整備目標を数十年程度の適切な規模に引き上げていくのが合理的です。
 台風18号で広範囲に浸水被害がおきたのは、びわ湖周辺の農地や住宅でした。琵琶湖総合開発では、湖岸堤や河口堰が設けられ、びわ湖水位プラス150aまでの対策がとられたとされてきました。しかし今回の豪雨での水位上昇はプラス77aまででした。予定の半分の水位上昇で大きな被害が起きたことになります。
 水位が上昇したびわ湖からの逆流は河口堰を閉めてくいとめ、河川の増水はポンプで排除する、琵琶湖総合開発の前提した「内水排除対策」は検証し、見直すべきです。瀬田川洗堰の全閉操作も、上下流府県の被害を最小に食い止める立場で、操作権を持つ国に再検討を求めるべきです。
 
●現状制度のフル活用で県民第一の対策を
 
 流域治水対策は、救援や復興支援が欠かせません。緊急の災害対策には現行制度をフル活用することが必要です。私たちは台風18号災害の直後、県に、「日本共産党の山下よしき参院議員が『災害救助法の適用は知事の判断で可能ではないか』と質問し、政府も『知事の判断で可能。各都道府県に周知、助言をはかる』と答弁した」ことなど資料も添え、県に申し入れてきました。
 ところが県は「災害救助法の適用は国がすること」という思い込みのまま、被災者の救援救済に役立てる検討を怠りました。国も同法の適用を見送ってしまいました。国が適用を検討する場合、自治体の被災家屋の割合が基準となるため、大型市町村合併がすすんだ滋賀では適用されにくいという面があります。
 県の対応は、たとえ不備があっても現状制度をフルに活用して住民救済にと考える点で不十分さがありました。このような県の姿勢は正す必要があります。
 安倍政権の大型公共事業バラマキの「国土強靱化」政策を背景にした、ムダなダムの復活を許さず、県民のいのちと暮らしを第一に、総合的な防災対策を進める立場で、住民の合意と納得が得られるよう、流域治水条例案は大幅に修正することを求めます。