(資料)20130708
 
憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明
 
  およそ近代国家においては、国の最高法規であり国家権力を制限する機能を果たす憲法に人権保障規定を設け、国民の基本的人権の擁護を図っている(立憲主義)。
  日本国憲法も、人権保障規定を持ち、更に、時の政権が自己に都合の良いように憲法を改正して国民の基本的人権を不当に制限することがないよう、自らの改正の発議要件として各議院の総議員の3分の2以上の賛成という特別多数決を採用している。その結果、少数者の利益・人権にも配慮した国会における慎重な審議が期待できる。
  さて、近時、政権与党の側から、我が国において憲法改正が一度もなされてこなかった理由を発議要件が厳しすぎることに求め、憲法を国民の手に取り戻すために発議要件を緩和しなければならない旨の主張が繰り返されている。
  しかし、国の最高法規であり人権保障機能を果たす憲法が、その改正に、より慎重さを求められるのはむしろ当然である。それゆえ、多くの国が憲法に厳格な改正要件を定めているのであり、日本国憲法が殊更に厳しい改正要件を定めているわけではない。
  また、憲法を国民の手に取り戻すために発議要件を緩和するとの主張は、発議要件を緩和すれば憲法改正案が国民投票に付される機会が増えるため、国民主権ないし民主主義に適うように見える。しかし、発議要件が緩和されると、国会での熟議がそれだけ期待できなくなり、国民は少ない情報しか与えられない状況下で投票を強いられる結果となる。かくては、発議要件の緩和は、時の政権に自己に都合の良いように憲法を改正する機会を多く与えるだけの結果に終わりかねない。特に、議院内閣制をとる国家にあっては、政権の座にある者が同時に国会の多数派でもあるので、その弊害は大きい。
  
  よって、当会は、憲法改正の発議要件の緩和に、強く反対する。
  
            2013(平成25)年7月8日
                滋賀弁護士会
                       会長 甲津貴央