国土交通大臣 羽田雄一郎 殿
2012年8月30日
「新名神高速道路」の建設事業凍結が解除された区間についての要望
日本共産党 京都府議会議員団
大阪府議会議員団
城陽市議会議員団
八幡市議会議員団
京田辺市議会議員団
箕面市議会議員団
茨木市議会議員団
高槻市議会議員団
枚方市議会議員団
大津市議会議員団
宇治田原町議会議員団
今年4月1日、前田武志国土交通相(当時)は、「新名神高速道路」の大津(滋賀県)〜城陽(京都府)、八幡(京都府)〜高槻(大阪府)の建設凍結を解除する方針を突然表明し、整備計画の変更など着工手続きに入ることを京都府京田辺市の会合で3府県知事に伝えた。そして、4月20日には西日本高速道路会社(NEXCO西日本)が国土交通大臣にこの区間の事業許可をうけ、工事に入ることになった。これにより、三重県四日市市と神戸市を結ぶ「新名神」の全区間が開通か事業中となった。
今回の建設事業が凍結解除された2区間は計35.8キロ、事業費が計約6800億円にのぼる。この2区間については、道路公団民営化に伴い「無駄な道路は造らない」ことを前提として「抜本的見直し区間」に決め凍結されていたものである。自公政権が建設を見直すと凍結した区間を民主党政権が解除したことは、「コンクリートから人へ」の公約に反し、国民への背信行為と言わざるを得ない。
この凍結解除は、極めて重大な問題を含んでいる。
野田民主党内閣の下で、高速道路、新幹線、ダムなど相次いで大型公共事業が復活している。4全総・5全総で位置づけられた14000kmの高規格幹線道路網、約7000kmの地域高規格道路網をつなぐとして、大都市圏環状道路や国土のミッシングリンクの「解消」に予算配分を重点化しようとしている。消費税増税によりうみだされる財源が充てられる可能性も否定されていない。こうした背景の中での「抜本的見直し区間」の凍結解除であり、重大な関心を払わざるを得ない。
今回、凍結解除された「抜本的見直し区間」は、第1回国土開発幹線自動車道建設会議(2003年12月25日)で凍結が決定されたものである。にもかかわらず、今回の解除は、国幹会議はもとより社会資本審議会等に諮られることもなく、大臣の一存で決められた。手続きの暇庇が疑われるものである。
さらに、今回の凍結解除の理由については、第2京阪道路の開通後も「依然として渋滞が緩和していない」などとするだけである。もともと凍結した時点でも、“渋滞”は存在していたのであり、それでも「3本もいらない」と凍結したことを考えれば、“渋滞”を凍結解除の理由とすることは合理的な説明とは言えない。10年近く凍結された間にも、少子化や高齢化、人口減、地球温暖化、デフレなど社会経済情勢は変化し、“渋滞の解消”を高速道路建設の理由とする状況は希薄化している。
しかも、解除を決めるにあたって、周辺の交通環境の変化に伴う影響評価は実施されず、費用対便益評価の根拠など、地元の住民、国民への説明も極めて不十分である。
今回の2区間の事業費は、旧日本道路公団から業務を引き継いだ西日本高速道路会社(NEXCO西日本)がすべて負担し、税金は使わないとする。しかし、通行料金等により利用者・国民が負担することに変わりはない。アクセス道路等の周辺整備には地方自治体の負担が生じるのは明らかである。
したがって、新名神高速道路建設の「抜本的見直し区間」の事業凍結解除を撤回するよう求めるとともに、国民・地元住民に対して、誠意ある説明を求めるものである。
記
1、今回の新名神高速道路の「抜本的見直し区間」の建設凍結解除の撤回を求める。
@「抜本的見直し区間」の建設凍結解除を決定する手続きにおいて、凍結されたのは国幹会議であったのに、今回は、それに等しい有識者等を交えた議論をしなかったのはなぜか。手続き上の暇庇があるのではないか。
A「抜本的見直し区間」として凍結とされた理由及び今回、解除した理由について説明されたい。凍結解除を決定するにあたって、何を検討し、どういう調査をして、事業化の決定をしたのか、検討内容と根拠になった資料や手続きについて説明されたい。
B費用対便益の検討について、国として検討したのか。高速道路会社によるものをそのまま採用する理由はなにか。B/C調査の元になったデータについて、すべて公表すべきである。
2、当該区間が凍結されてから、今回の凍結解除までに何年もの期間があった。この間に、環境影響について、再調査やそれにもとづく検討がやられたのか。新名神高速道路の建設にあたって、計画周辺地域への影響が懸念されている。すでに、諸問題が発生している地域もあり、環境アセスメントをあらためて実施すべきである。
また、次の諸点についての調査と検討、そのデータと評価の公表を求めるものである。
@凍結した時点と現在では、京滋バイパスや第2京阪道路の開通による大きな変化もあり、交通環境変化の進捗を勘案するとしていたが、この調査と検討はどうか。
A箕面市での地下水対策についても危倶がよせられているが、地下水対策についての調査と検討はどうか。
B枚方市のような、大半トンネルで道路が通過し、住宅密集地にトンネルからの排気ガス等が放出されるところでは、大気汚染は明白である。こうした区間の排気ガス等の対策についての検討はどうか。また、大気汚染のPM2.5の環境基準が新たに設定されたが、PM2.5の環境影響評価を行ったのか明らかにされたい。
C八幡〜高槻間は、八幡市男山を起点とする「田口断層」(生駒断層系)を横切る計画になっているが、この断層が動けば、阪神淡路大震災級(マグニチュード7〜8)の被害が予想されている。また、枚方市西船橋地域は、大阪府の1級河川・船橋川(天井川)に隣接し、地盤が軟弱である。地震や洪水による災害が起これば、橋脚の損壊、地下トンネル部分の破壊、地盤の液状化やトンネルへの浸水など危倶されるが、防災上問題はないのか。調査の上明らかにされたい。
D高槻市・鵜殿(うどの)の葦(ヨシ)の保全について、調査と検討はどうか。世界遺産である雅楽の楽器である篳篥(ひちりき)にとって不可欠な、日本で唯一ともいわれ、他の葦では代替がきかないといわれている、鵜殿の葦の保全は絶対に必要である。葦の生育を確保するためにとられている現在の措置が、道路建設により阻害されることは明白であり、結果、葦の絶滅をもたらせば取り返しのつかないことになる。
3、今回の凍結解除決定にともない、関係自治体は取り付け道路や周辺の生活道路計画など都市計画が求められるが、通過予定の市町村は、4月の突然の凍結解除で、7月初旬に至っても説明や協議すら行われていなかった。政府は「地元意見」をふまえてというが、知事の限られた意見だけを「地元意見」として建設促進の要望として取り上げ、通過自治体や住民の意見もかえりみず、凍結解除を強行したことはとうてい許されるものではない。
こうした、高速道路建設について、少なくとも、通過自治体、住民合意を保障し、公正・民主的にすすめる必要があると考えるが、各自治体との協議や住民への説明会などの措置をとられたい。
以上