■(資料)滋賀・京都2知事による「原発政策への提言」(2012年4月17日)
内閣総理大臣 野田佳彦 様
経済産業大臣 枝野幸男 様
国民的理解のための原発政策への提言
福島第一原子力発電所の事故は、福島県をはじめ日本に取り返しのつかない社会経済的、環境的影響を与えている。このあまりにも重い教訓を胸に、日本で、原子力災害を二度と起こしてはならないことをまず強く訴えたい。
こうした中、大飯発電所の再稼働が問題になっているが、京都府と滋賀県は、大飯発電所に隣接し、万一の事故に備え、防災対策を重点的に実施すべき「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)に、京都府域では6.8万人の人口が居住し、滋賀県は近畿1450万人の命の水源である琵琶湖が含まれる。いったん事故が起きれば、私どもも立地地域同様大きな被害を受けることになる「被害地元」ともいうべき地域である。
私どもは改めて、この間福井県が背負ってきた多くのご労苦に対し心から感謝申し上げるところですが、国のエネルギー政策を左右するこの間題の解決に当たっては、国民的な理解が不可欠であると考えている。しかしながら、政府において、未曾有の被害を及ぼした福島原子力発電所の事故原因究明とその対策を十分に踏まえた国の原子力防災基本計画が示されていない段階にあり、原子力発電の安全性や再稼働の必要性を含め、国民への説明は未だ不十分であり、再稼働への国民的理解が得られているとは言い難い状況にある。
こうした状況を踏まえ、私たちは再稼働の判断に当たって、国民的な理解のために、以下の項目の実現が必要であることを提案するものである。
1 中立性の確立~政治的な見解ではなく信頼のおける中立的な機関による専門的な判断を~
エネルギー供給対策と安全対策を一つの官庁で行なうことは利益相反する場合があり、原子力規制庁の早期設置が必要である。未だできていないことは大変遺憾であるが、少なくともそれに匹敵する、原子力安全委員会や専門家の客観的かつ明確な意見が政治的な判断の基礎として重要不可欠であると考える。また、今夏の電力需給状況についても、事業者の提出資料だけで判断するのではなく、第三者委員会を設け、公平にその需給状況を点検することが必要である。
更に確固たる安全体制づくりに向けて、地元自治体と地元住民参加の仕組みの創設を図り、安全性を住民とともに追求する意識の醸成を図るべきである。
2 透明性の確保~国民の納得できる情報公開を~
福島原発事故の詳細なデータの公表、事故原因の徹底した解明と公表、電力需給状況に係る資料の完全な公開など、国民理解を得るためには、まず国民の判断基準となる情報を徹底的に公開すべきである。
3 福島原発事故を踏まえた安全性の実現~免震事務棟、防潮堤などの恒久的な対策ができていない段階における安全性の説明を~
福島原発事故の原因追及を徹底し、政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告を本来待つべきである。それだけに、大飯発電所3・4号機については、これまで実施された応急措置(基準1、基準2)と恒久措置(基準3)の関係を明らかにし、恒久措置に代わる安全性が担保されているか、恒久措置の実行が担保されているか、また、その過程は適切かなど、再稼動の問題点を明らかにすべきである。
4 緊急性の証明~事故調査が終わらない段階において稼働するだけの緊急性の証明を~
今夏の電力需給状況については、第三者委員会の意見を踏まえた客観的データ等による検証を行うとともに、需要のピークカット対策の強化や、電力確保対策の積み上げを徹底して行うべきであり、中長期的な確保策も含め国民に全体像を示すことにより、国民の参加・協力を求めるべきである。
5 中長期的な見通しの提示~脱原発依存の実現の工程表を示し、それまでの核燃料サイクルの見通しを~
長期的なエネルギー計画の作成とエネルギー供給体制の透明化、自由化、民主化に関する対策を示すとともに、再生可能エネルギーや新産業の育成により、国際的にも最先端のエネルギー環境産業の推進を図るべきである。特に関西は、再生可能エネルギーや蓄電技術の先端産業集積が進んでおり、地元産業の育成、支援を図るべきである。また、使用済み核燃料については、大飯発電所でも、あと6・7年で使用済み核燃料プールは満杯となる。最終処理体制の確立に国として真剣に取り組み、その工程を示すべきである。
更に、旧型の原発や老朽化した原発、地震・津波による危険性が高い地域に立地する原発の廃炉計画などを示し、政府の主張する「脱原発依存」社会への移行を目指した工程表を提示すべきである。
6 事故の場合の対応の確立~オフサイトセンターの整備やマックス2、スピーディなどのシステムの整備とそれに伴う避難体制の確立を~
事故を起こさない事が何よりも重要であるが、起きた時の対策についても福島原発事故を踏まえ早急に構築すべきであり、その際には、機能しなかったオフサイトセンター、情報提供されなかったスピーディの予測など、福島原発事故の教訓を徹底的に踏まえた対策を構築すべきである。
7 福島原発事故被害者の徹底救済と福井県に対する配慮について~東京電力はもちろんのこと、国においても福島原発事故被害者に責任を持って対応するとともに、福井県の今までの努力に対し配慮を~
京都府と滋賀県は、東日本大震災直後から関西広域連合の一員として共同して、福島県の復旧・復興支援に取り組んできたところであり、その受難のありさまを目の当たりにしてきた。福島原発事故の健康上、環境上、社会経済上の影響は甚大であり、その救済を国は東京電力に任せることなく、自ら徹底的に救済に当たることが信頼確保のためにも必要である。
また、関西では1970年代初頭より、若狭湾岸の原子力発電所により、安定的な電力の供給をいただき、関西の都市化と経済発展を可能としてきた。その間にとられた福井県の安全確保の努力を多とし、感謝の気持ちを込め、経済面等、福井県に対する国としての全面的配慮を求めるものである。
平成24年4月17日
京都府知事 山田 啓二
滋賀県知事 嘉田由紀子