(資料)日本科学者会議の県原子力防災計画の見直しについての見解(2012年3月21日)




                         2012年3月21日
滋賀県知事
滋賀県防災会議会長
嘉田由紀子様

    滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の見直しについて

                 日本科学者会議滋賀支部原子力災害専門委員会
                  委員長 西山勝夫(滋賀医科大学名誉教授)

 貴職が、県民の安全・健康・暮らしを守る責任を果たすため、全国に先駆け、滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)を見直し、SPEEDIの活用が許されない下で、独自にシミュレーションを行い、福井県内で福島第一原発と同程度の事故が起これば、県民の安全・健康・暮らしに堪えがたい重大な影響を及ぼすことを明らかにし、福井原発の再稼働が認められない根拠を示したことに敬意を表します。

 日本科学者会議は、専門、地域などの枠をこえた科学者の団体として、日本の科学の自主的・民主的な発展と科学者の社会的責任を果たすために活動し、日本科学者会議滋賀支部では原子力災害専門委員会(以下、当委員会という)を設置して、県の地域防災計画(原子力災害対策編)見直しのプロセスを注視してきたことは、去る1月27日の貴職への要請文書において述べたとおりです。

 その後、当委員会は、滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)見直し検討委員会(以下、検討委員会という)・林春男委員長による貴職宛の2012年2月10日付「滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)見直し案に関する提言」(以下、提言という)を検討しました。その結果に基づき、以下の見解を表明します。

1.提言は、検討委員会での指摘をほとんど反映していない。

 第4回検討委員会(2月3日)では、事務局の計画素案に対し、数々の要請(付記参照)が出された。委員長は、それらを提言に反映する旨を述べ、検討委員会の終結を宣言した。しかし、提言は一部の字句や図の修正・補充、用語集の追加に留まっている。これでは林委員長および事務当局のお手盛りとの批判を免れない。

2.事故の想定が不適切である。

 提言前文で「これまでの計画が、福井県で万一の事故が発生した場合でも、滋賀県には影響がないとの想定であったため、抜本的に見直しすることとした」と述べているように、これまでの防災計画は、「事故の影響がない」という誤った想定のため、役に立たないものであった。

 提言では、その反省には言及せず、理由も示さず、原発稼働を前提にして、福井県のもんじゅを除く4カ所の原発のいずれかにおいて、放射性希ガスおよび放射性ヨウ素の福島原発事故時の短時間放出量相当が放出されるものと想定している。しかし、福井県にある「もんじゅ」を含む原発(以下、福井原発という)の事故が福島原発事故と同等と考えるべき根拠はなく、従来の想定と同様に不適切である。

 福島原発事故においても、政府は核燃科が飛散し首都圏住民の避難を迫られる最悪事態の可能性を考えていたことが明らかになっている。結果としてそうした最悪事態には至らなかったが、将来の福井原発事故でも同様に、福井県原発全14基が制御不能という最悪事態を免れると想定することはできない。

 したがって、実効ある防災計画を策定するには、最悪事態を想定する必要がある。

3.災害応急対策には実効性がない。

 2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震を契機とした福島原発事故では、原子力緊急事態宣言が発せられたのが19時03分、最初の避難指示は20時50分と遅きに失し、周知も不十分であった。十数万の住民が、情報が隠蔽され、放射能汚染のためオフサイトセンターが機能しないなかで、避難しなければならなかった。安定ヨウ素剤服用や高齢者など弱者の移動に大きな問題が生じ、事故関連死も多発した。各地域の放射線量のきめ細かい測定もできず、また、住民や自治体に的確な放射線情報が与えられなかったため、ホットスポットに避難所がおかれるなどの問題が起こった。さらに、地震や津波による家屋倒壊や道路寸断などの災害が複合した。福井原発事故ではこれらに加えて、積雪時の交通途絶なども考慮しなければならない。

 これらの問題に対応するためには、迅速な初動を可能とする滋賀県独自の原発事故(近事故や予兆を含む)察知体制と、住民がこれなら大丈夫と思えるような災害応急対策をつくりあげ、住民が参加した訓練により実効性を確保しなければならない。

 提言の災害応急対策は、緊急時や地域の実情に即した具体性に欠け、訓練を含む災害対策の経費の負担を原子力事業者や国に対して求める措置も記されず、上記の問題に対処できる実効性があるとは言えない。

4.短期および中長期の災害対策の検討を急ぐべきである。

 今回の提言は、事故発生直後24時間の短期的な災害応急対策であり、中長期的な視野での総合的な対策については、今後の課題として先送りしている。とりわけ重要な、避難民の短期および中長期の受け入れ体制、関西1400万人の飲料水源である琵琶湖のセシウム汚染のシミュレーションと除染対策、土壌や農作物並びに食料の汚染対策などについては、検討を急ぐ必要がある。

 検討に際しては、被災する可能性のある住民の意見を十分に反映するとともに、琵琶湖の汚染、土壌の汚染、人のいのちや健康への影響、暮らし・産業への影響に関し、県内の学識者・専門家の協力を得るべきである。

5.福井原発の再稼働に反対し、廃炉をめざすべきである。

 貴職は、原発について「安全性と社会的合意を抜きに再稼働はするべきではない」、「絶対安全というところが担保でき、しかもそれが社会的に合意できるという手続き抜きに安易に稼働するべきではない」と表明されている。当委員会はこの姿勢を肯定するとともに、今後、後退したり弱められたりすることのないように貴職に望む。

 原発稼働を前提とする限り、絶対安全は担保されない。県民の「絶対安全」のために、福井原発すべての再稼働を許さず、また、廃炉に至るまでの安全対策に万全を期することを貴職に要請する。

                                            以上
(付記)
 第4回検討委員会において事務局の計画素案に対して指摘された主な事項
・一番科学的に厳しい影響を見るべき、ワースト・ケースを考えてシナリオの充実をはかって頂きたい
・重点的に充実すべき地域の別表がない
・モニタリング情報の共有が大事、福井と滋賀の関係を明示すべき
・セシウムの影響を今後検討すると書かれていない
・安定ヨウ素の備蓄について書かれていない
・コンクリートの建物がなく退避できない場合のことが書いてない
・想定の変更、複合災害、国の数字の変更などによりUPZなどのゾーンも変わることをふれるべき
・安定ヨウ素剤の投与や避難の指示の指標が明らかでない
・明示していないことはやらない、ということではないことを総則に書くべき
・予算化できない計画はだめ
・地震と複合した福島の経験を、総則と要所に十分書くべき
・福島以上の想定がありえることを示すべき
・国と県の役割分担があいまい
・長期にだらだらと放出する場合のことが書いてない
・福井から避難者をどうするのか
・退避などの措置に関する指標には、住民移動を促す情報が書かれていない
・住民が適応的に自分で行動できるようにできるメッセージが書かれるべき
・住民の要望をつかむリスク・コミュニケーション・プロセスがない
・最初の情報を一斉に開示する体制が必要
・実際的に避難につながるモニタリング計画を明記すべき
・横文字の塊で判じ物のような記述を改めるべき
・NPOの役割が記載されていない