□(資料)原発防災で科学者会議が県に提言
1月27日、日本科学者会議滋賀支部原子力災害専門委員会が県知事と県地域防災計画(原子力災害対策編)の見直しにかかる検討委員会委員長あてに、提言を提出されました。内容を全文、紹介します。
2012年1月27日
滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の見直しについて
日本科学者会議滋賀支部
原子力災害専門委員会
委員長西山勝夫(滋賀医科大学名誉教授)
日本科学者会議は、専門、地域などの枠をこえた科学者の団体であり、日本の科学の自主的・民主的な発展と科学者の社会的責任を果たすために活動してきました。2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故という未曾有の大災害についても、自らの課題として取り組んでいます。また、日本科学者会議滋賀支部も震災や原発事故に関する知識の普及に努めるだけでなく、福井県原発の事故を想定し、滋賀県民ひいては関西の命と水を守るために何をなすべきかを検討してきました。
今回の東日本大震災では福島第一、福島第二、女川、東通、東海第二の5原発で事故が発生しました。福島第一では運転中の1、2、3号機が原子炉の制御不能に陥り、炉心溶融し、停止中の4号機でも使用済み燃料プールの冷却停止が起こり、崩落の危険が迫りました。そのため一時は首都圏の避難すら真剣に検討されました。こうした経緯を考えれば、福井県原発全14基が制御不能という最悪事態が起こり、核燃料・核廃棄物の大部分が放出される過酷事故の可能性も排除できません。
滋賀県は県民の安全と関西の命と水を守るために、最悪事態を想定外とすることなく、それに対処するための具体的な手順と、訓練を伴う実際的な避難計画を具体化することなしに、福井県原発の再稼働を認めるべきではありません。最悪の事態に対処し、住民の安全と琵琶湖の汚染防止を保障できなければ、福井県全原発の廃炉を求めるほかはありません。その場合にも廃炉に至るまでに長期間を要するところから、その間の過酷事故の発生を想定して、原子力防災を万全にしなければなりません。
滋賀県には災害対策基本法と原子力災害対策特別措置法に基づく「滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)」がありますが、そこでは過酷事故は想定されておらず、県民の安全を守るにはまったく不十分であることが、福島原発事故により実証されました。そこで、日本科学者会議滋賀支部は原子力災害専門委員会を設置して、県の地域防災計画(原子力災害対策編)見直しのプロセスを注視してきました。
そのプロセスについては福島原発事故をふまえ、県独自の大気シミュレーションによって事故時の放射性ヨウ素の拡散予測を行い、滋賀県全域が安定ヨウ素剤服用などの防護措置を実施する地域となる可能性があることを明らかにするなど、従来の原子力災害対策に比べて積極的な内容が認められます。しかし、福島原発事故の深刻さを考慮すれば、今後早急に進めるべき課題がまだあまりにも多いと言わざるを得ません。
日本科学者会議滋賀支部原子力災害専門委員会は、滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)の見直しについて、以下の見解を表明します。
1.今回の県独自のシミュレーションは、福井県内の美浜原発あるいは大飯原発で福島第一原発と同程度の事故が発生した場合のみについてである。福井県原発全14基が制御不能になるという最悪事態が起こり、核燃料・核廃棄物の大部分が放出される過酷事故について、SPEEDIの活用も含めたシミュレーションを行うべきである。
2.今回の県独自のシミュレーションで予測されているのは放射性ヨウ素による甲状腺被曝等価量のみである。放射性セシウムなどの被曝についても短期的、長期的影響の予測をすべきである。人体影響のみならず土壌、琵琶湖、生態系、食品、暮らしや産業・経済への影響についても予測すべきである。
3.滋賀県は、県民の安全・健康・暮らしを守る責任を果たすために、最悪事態が発生した場合、防災計画に基づく訓練によって県民の生命と健康を守れることが確認できるまでは、福井県の全原発の再稼働を認めるべきではない。
4.最悪事態が発生した場合、県民の安全・健康・暮らしには取り返しのつかない被害が及ぶことを想定し、第一の防護は福井県の全原発の廃炉を進めることであるという点についても検討すべきである。最悪事態を想定した防災計画とそれに基づく訓練は、全原発の停止中あるいは廃炉工程においても必要である。
5.以上の点を考慮した実効ある滋賀県地域防災計画(原子力災害対策編)をつくるために、滋賀県はひきつづき検討を急ぐべきである。検討に当たっては、被災する可能性がある県民の意見を十分に反映するとともに、県内から琵琶湖の汚染、土壌の汚染、人のいのちや健康への影響、暮らし・産業への影響に関する学識者・専門家を加えるべきである。
以上