2011年6月13日
関西電力株式会社社長 八木 誠 様
原子力発電所の安全対策の抜本的強化を求める申し入れ
日本共産党国会議員団近畿ブロック事務所
福島原発事故は、地震や津波で冷却水がなくなれば炉心が溶け、コントロール不能となり、大災厄をもたらすという今の原発技術の本質的危険を明らかにした。今回の事故は、日本共産党や市民団体がその危険性を再三指摘し抜本的な安全対策を求めたにもかかわらず、東京電力と歴代政府が「安全神話」にしがみつき、改善を怠ったために発生した「人災」であることは明らかである。
有数の地震・津波国である日本に原発を集中立地することは危険きわまりない。とくに貴社が11機を運転している若狭湾沿岸には、日本の原発の4分の1が集中し、処理技術の目途がない使用済み核燃料は8000体以上が保管されている。日本列島のどこにも、大地震と大津波の危険性のない「安全な土地」と呼べる場所は存在しないが、特に若狭湾の原発群は地震専門家から「浜岡原発に次いで危険」と指摘されている。近畿1200万人の「水がめ」琵琶湖は30`圏内にあり、重大事故が起これば被害の甚大さははかり知れない。福島原発のような重大事故は、若狭湾において絶対に引き起こしてはならない。
しかし貴社は、福島事故後も「安全神話」にしがみつき、住民に「若狭湾周辺で大きな津波が生じる可能性は低く」(「越前若狭のふれあい」特別号No.2 2011年3月)などと宣伝し、しかも天正13 年(1586 年)の「天正大地震」で、若狭湾沿岸が津波により大きな被害をうけたことを記した文献の存在を知りながらこれを検証せず、「周辺で津波による大きな被害記録はありません」(同)としてきた。このような姿勢で安全が確保できるのか大いに懸念される。
以上により近畿各府県の住民の安全を守るため、若狭湾の原発の抜本的な安全対策と従来からの原発に依存したエネルギー政策の転換について、以下の諸点を強く申し入れる。
記
1.原発依存の電力供給、エネルギー政策を転換し、原発ゼロをめざす計画をつくること
貴社の原発依存率は54%であり、他の9社と比べても異常に高い。原発依存の電力供給、エネルギー政策を転換し、太陽光、風力、地熱、小水力等再生可能な自然エネルギーに段階的に切り替え、原発ゼロをめざす目標と計画を策定されたい。
2. 運転停止中の原発の運転再開を中止すること。原発の新増設は行わないこと
緊急に対処すべき問題として、政府において、今回の事故の重大な教訓を踏まえ、国際基準にも合致した新しい原発の安全基準をつくり、耐震や津波対策など原発の総点検と安全対策を実施すべきである。そのため貴社においては、運転停止中の美浜原発1号機など5基と7月末までに定期点検に入る2基の運転再開は中止されたい。
3.過去の津波被害を調査し、津波対策を抜本的に見直すこと
貴社は福島事故後も、地方議会や住民向け広報紙で「若狭湾には大きな津波は発生しない。文献にもない」と説明してきた。しかし吉田神社(京都市左京区)の宮司・吉田兼見による第一級の歴史資料「兼見卿記」とポルトガル人宣教師ルイス・フロイスの「日本史」には、「天正大地震」による津波で大きな被害が発生したことが記されている。貴社はこのことを知りながら、「信用できないもの」として検証しなかった。貞観地震による大津波の歴史を無視した福島原発事故を想起させる。「兼見卿記」などの文献にかかわる「お知らせ」(「当社の津波文献調査に関する報道について」5月27日付)において貴社は、「過去、若狭地域で津波調査があったかどうかを確認するため、調査を行うかどうかを検討」としているが、調査を行うことを明確にすべきである。
若狭湾の原発の津波想定は、美浜原発で1.57メートル、大飯原発で1.86メートル、高浜原発で0.74〜1.34メートルなどとなっている。しかし、津波への対策も、国の中央防災会議のなかで抜本的な見直しが行われることになっている。福井県は、3月17日に国に行った「緊急要請」のなかで、「日本海側で発生した過去の地震・津波を歴史的な見地から再検証し、今回のようなプレート境界型地震が日本海側で発生する可能性やその範囲、想定されるマグニチュード・津波の大きさ等について、本県および各県の原子力発電所の耐震安全性に反映するべき知見があるかを明らかにすること」と要望している。
貴社においても、こうした真摯な態度であらためて調査研究を行い、津波対策を抜本的に見直すべきである。島原発では、地震による受電鉄塔の倒壊で外部電源が失われた。若狭湾の原発において、地震によって受電鉄塔が倒壊しないように抜本的な安全対策を講じること。地震や津波ですべての電源が喪失したもとでも、原子炉や使用済み燃料プールの冷却が継続できるようにするため、電源車の配置など抜本対策を早急に講じること。
4.若狭湾の原発周辺の断層の評価を再検討すること。
若狭湾周辺はもとより若狭湾周辺で地震・津波を引き起こす可能性のある断層など広範囲に調査すること。原発耐震安全性の抜本的な見直しをおこなうこと。
5月11日の衆院経済産業委員会で、寺坂信昭原子力安全・保安院院長は、日本共産党の吉井英勝衆院議員の質問にたいして、「震源域の真上にある原発は、世界では承知していない。世界で活断層から1キロメートル以内に原発があるのはもんじゅ、敦賀、美浜の三つだけ」と答えた。
貴社の現時点の調査によると、美浜原発周辺では、マグニチュード7.7の「大陸棚外縁断層、B断層、野坂断層」地震とマグニチュード6.9の「C断層」地震、大飯原発と高浜原発周辺では、マグニチュード7.4の「FO−A断層、FO−B断層」地震が想定されている。こうした大地震が起きれば、高浜、大飯、美浜原発に重大な被害が発生することは必至である。原子力安全委員会は、福島原発の事故を踏まえ、去る4月28日、原発周辺の断層の評価を再検討するよう経済産業省原子力安全・保安院に通知した。従って、貴社においても、若狭湾の原発周辺の断層評価をただちに再検討されたい。
地震の専門家からは、若狭湾で起きる津波について若狭湾周辺の断層による地震にとどまらない可能性が指摘されている。より広範囲の調査が必要である。
福島第一原子力発電所では、想定を上回る震度により、津波の到着以前に重大な破損が起こり、大量の放射能漏れが発生した可能性が指摘されている。国の原発耐震指針の見直しについても、原子力安全委員会の専門部会が検討を始めることになっている。若狭湾では、マグニチュード7.7とマグニチュード7.4の大地震が想定されているにもかかわらず、美浜原発では750ガル、大飯原発700ガル、高浜原発550ガルにすぎない。貴社の原発の耐震安全性を抜本的に見直されたい。
5.老朽原発を計画的に廃止し、プルサーマル計画は中止すること。
老朽化した原発への不安が高まっている。関西電力の11基の原発のうち1970年代に建設し30年以上も運転している原発は7つもある。核分裂で発生する中性子に長時間照射されることによって原子炉圧力容器の強度が下がるといわれており、蒸気発生器の細管破断などの重大事故も繰り返されている。運転開始30年を越える老朽原発を運転延長すること自体大きな問題がある。直下型大地震による原発事故を防止するためにも、30年以上運転した老朽原発は計画的に廃炉されたい。
さらに、プルトニウムはウランと比べて人体に極めて危険性の高い放射性物質であり、プルサーマル計画は中止されたい。
6.「安全神話」から決別し、過酷事故を想定した避難計画及び訓練など考えうるあらゆる安全対策をとること。事故隠しをせず、情報を公開すること。