■琵琶湖の周りダム目白押し(2000年4月12日)

 琵琶湖の周囲に8カ所のダムが計画され、建設がすすんでいます。完成すれば、既存のダムとあわせ、総貯水量は2億8000万トン、琵琶湖の水量の1/100を越えます。

        計画中のダム
大戸川ダム  信楽町  重力式コンクリートダム  近畿地建
          大戸川  都市用水         740億円

丹生ダム    余呉町  ロックフィルダム     建設省・水資源開発公団
          姉川

姉川ダム    伊吹町  重力式コンクリートダム  県・建設省   間組・西松建設
          姉川   治水           372億円

栗栖ダム    多賀町  重力式コンクリートダム  県・建設省
          芹川   治水           265億円

永源寺第二ダム 永源寺町 重力式コンクリートダム  近畿農政局
          愛知川  農業用水         530億円

北川第一ダム 朽木村  重力式コンクリートダム  県・建設省
          麻生川  治水           430億円

北川第二ダム 朽木村  重力式コンクリートダム  県・建設省
          北川   治水           *

金居原発電所 木之本町 ロックフィルダム     関西電力
(下部)      巣亦川  発電           *


 滋賀県北部の余呉町の高時川上流に建設予定の丹生(にう)ダムは、堤の高さ145m、総貯水量1億5000万㌧。総事業費1100億円という、関西最大のダムとなります。

 この大きさについて県立大学の熊谷道夫教授はその影響を心配します。「琵琶湖への酸素の補給がダムでカットされるわけですから、琵琶湖の水質に与える影響は大きい」。山から流れ出る雪解け水は、水温が低く、たっぷりと酸素を含んで琵琶湖の底層にもぐりこみます。それが「琵琶湖の深呼吸」といわれ、湖の底を無酸素状態、死の世界にすることを防いでいるからです。

 琵琶湖北湖の底層はいまでも無酸素状態に近く、無酸素になれば、底泥に含まれる、さまざまな重金属が溶け出すことが知られています。しかし、この問題にふれたダムの環境影響評価は、丹生ダムだけでなく、どこもありません。

 丹生ダムは、関西の水需要にこたえ、洪水に備えるという目的を掲げます。しかし「その目標は矛盾している」と指摘するのは、滋賀大学の近藤学教授。

 「水源確保には水をためたいが、洪水対策にはカラのほうがいい。これを両立させようとして現に苦しんでいるのが、琵琶湖の水位調整ではないか。もともと関西圏の水需要にこたえることを目的とした琵琶湖総合開発も、水需要の過大予測が明らか。下流府県の水需要は伸びず、施設拡大のツケに苦しんでいます。さらにダムの必要があるのか」

 丹生ダムは貯水量では全国第23位の巨大ダム。しかし、貯水量を堤体積で割った貯水効率では、わずか10・3。全国303のダムのうち、下から数えて第45位。いわば「限りなく高くつく」ダムです。関西府県はこのダムで水没する7集落はじめ、影響を受ける地元の振興に水源地域整備計画(約96億円)のうち約39億円を負担しなければなりません。

 ところが、ダムによる経済効果が投資費用を上回らなければならないと、法律で定めているのは、農業用ダムだけです。

 では農業ダムは効果が上回っているのか。湖東地域の永源寺町愛知川上流の永源寺第2ダムでは、そのことを争点として「ダム建設の差し止め」の住民訴訟が続いています。

 永源寺第2ダムは、農水省が事業費総額530億円をかけ、現在ある永源寺ダムのさらに上流に総貯水量2570万㌧のダムを計画しているものです。計画発表のときから、住民、町議会、観光協会、漁協などから異議申立が相次ぎました。

 裁判では、国側の主張する費用対効果の比は、100対103。効果が上回るといってもぎりぎりです。293人の原告の一人、野田清司さんは「建設費が途中でふくれ上がれば、中断するのか」ときびしく指摘します。

 計画の段階から目的が失われたダムもあります。

 岐阜県との境、木之本町金居原(かねいばら)に関西電力が計画している揚水発電所。貯水量1730万㌧のダムを2つをつくり(上部ダムは岐阜県)、原発など夜間の余剰電力で水を汲み上げ発電するもの。最大出力228万㌔㍗。揚水発電所としては国内2番目の規模。総事業費は5000億円。

 関西電力は、「平成十年代半ば以降の厳しい電力需給状況に対処したい」と地元に説明してきました。しかし今年3月末、関電は「電力需要の伸び悩み」から電力供給計画を見直し、2003年完成の予定を変更。着工を来年8月以降、運用も2011年以降に延期したのです。

 ダム予定地付近は、希少野生動植物種のイヌワシ、クマタカの繁殖地。現在すすめられている準備工事で、イヌワシのメスが行方不明となり、自然保護団体がただちに原因調査と、準備工事の中止をと求めています。

 公共事業ではないといっても、整備中の工事用道路は国道で、滋賀国道工事事務所によると、この工事費は約300億円にのぼります。

 「これらのダムはすべてその必要性が疑わしく、経済効果も疑問」--大津市内で9日まで開かれたG8環境大臣会合に、「びわ湖自然ネットワーク」(寺川庄蔵代表)が指摘しました。提出した英文13㌻にのぼる「滋賀県の環境問題」では、「琵琶湖が直面している問題は多いが、問題の第一はダム」と指摘。これまで県内調査や住民集会、新聞への意見広告などに取り組んできましたが、「その声は県当局および中央政府には届きません」とのべています。

 「むだな公共事業」という国民の批判にたいし、国や県がダム計画の「見直し」を打ち出したことがあります。しかし県内のダムは「すべて生き残った」(びわ湖環境ネット)のです。しかしそれはダム計画が合理性を持っていると納得できることと同じではありません。

 1998年、県は事業着手から長期間へても着工のめどがたたない建設省関連事業を見直すため、姉川(伊吹町、本体工事着手)、北川(朽木村、用地買収)、栗栖(多賀町、調査中)の3ダムについて見直す監視委員会を設置しました。委員会委員長をつとめた吉田修滋賀大学経済学部教授は、ダム工事への投資額や過去の洪水被害額などを議論し、「中止の意見もかなり強く出された」といいます。

 栗栖ダム予定地はダムの重量に耐えることができるかどうかが疑われる、地盤が崩れた地域で、ダムが崩壊すれば下流の洪水は大災害となります。北川ダムは2つのダムを連携して運用するという、難しい操作が求められます。「下流の河川整備こそ急ぐべきだ」というつ用声があります。

 日本共産党は、これまで巨大ダム計画の見直しを要求してきました。G8を前にした6日にも、開催される滋賀県がこれでいいのかと指摘して、県に申し入れた緊急課題にも、金居原揚水発電所をあげました。

 永源寺第2ダム差止訴訟の弁護士としても活躍している吉原稔滋賀一区候補はいいます。 「国・地方の財政破たんがすすみ、公共事業と社会保障費の逆立ち政治を諸外国なみにもどうそう、というのは焦眉の課題です。その一つがダム。目的を失い、住民に被害を及ぼし、国も地方にも重い負担となるダムで、環境への負荷を増大させ、いっぽうで国民の生活の不安を放置する政治でいいのかという声は大きい。その声が活かされないのは、公共事業優遇、日本の将来に責任を負わない自公保の無責任政治が続いているからです。日本共産党はこの点でも期待にこたえたい」