■「びわこ空港」住民無視で破たん 直接請求が追いつめる(1999年2月2日)

 クヌギの雑木林の間に田んぼや果樹園。メジロやシジュウカラがすぐそばまできて、夕暮れにはシカが鈴のような声で鳴きかわします。そんな里山の木々に白いプレートが光ります。「びわこ空港」予定地で、十年も計画に反対し続けてきた住民の、立木トラスト運動のプレートです。

 滋賀県が、琵琶湖の東側内陸部に、180ha、2000m滑走路の県営空港をと、決めたのは、10年前の1988年11月のことです。事業費は1580億円。

 しかし、空港計画は住民の強い反対運動で、環境影響調査もできないまま。この2月には、「白紙撤回を」と求める人たちによる、空港の是非を問う住民投票条例の直接請求が県議会に出されます。

 昨年末、直接請求署名は全市町村で法定数を突破。有権者の1/8、13万余にのぼりました。

 「びわこ空港はできても利用しないね。特急『はるか』で関空へ直通」(野洲町の大企業管理職)、「やってほしいことは他にいっぱいある」(新旭町の商店主)。住民投票条例の制定を求めた県民の声です。

 「びわこ空港」の予定航路は、札幌、福岡、鹿児島、那覇。東京便はありません。新幹線や名神高速道があり、関西国際空港や名古屋空港も近く、競合は避けられません。

 県は、2005年の開港時に76万人が利用すると予測します。県人口、132万人の6割という、とんでもない数字です。

 滋賀大学経済学部の近藤学助教授は「県の予測は、経済成長率2・5~3%を前提している。それはマイナス成長という現実で破たんし、将来も疑問です。空港で県財政は教育や社会保障を削り続ける構造になる」と警告します。

 いまでも国松善次知事は、こう明言します。「将来(「びわこ空港」など)に備え、県民のみなさんにがまんをお願いしたい」。県の98年度予算では、ガン検診や休日夜間診療所の補助、ゴルフ場の農薬検査など55億円を削減しました。

 99年度から3年間の「新行政改革大綱」では、教職員の削減もふくめ約159億円をカット。お年寄りや、2歳未満、母子家庭、父子家庭、重度障害者などの医療費無料化制度の縮小・廃止までが検討中です。

 空港の1850億円は、医療費無料化制度(年間約20億円)の80年分にもあたります。

 「びわこ空港」は、日米構造協議で、アメリカから押しつけられた10年間で430兆円(現在は630兆円)の公共投資計画を背景に計画され、県は「空港のない県はさびれる」などと宣伝してきました。

 しかし、その宣伝とはうらはらに県は一昨年、地域振興につながると説明してきた流通センターや産業団地など空港周辺整備計画を、ばっさり削減してしまいました。

 「何のための空港なのか」--県が「空港の推進のために」と、開いた「びわこ空港に関する公聴会」でも、そんな声が出ました。

 いまでは政府も、「地方空港は費用対効果基準で再評価すべきだ。『一県一空港』という時代ではない」(安富正文運輸省航空局次長)といいます。しかし、「県の空港をこちらからどうせよとはいえない」ともいいます。

 空港をあおり、91年11月、国の第6次空港整備5カ年計画に「びわこ空港」を採択し、まったく進捗のめどがないのに、現在の第7次計画にも引き継いできたのは、政府自身だからです。

 予定地内で観光リンゴ園を経営する農家は「去年、台風でリンゴが全滅した。電話もしたが、役場は見にもこない。わかってますという一言だけ。(リンゴ園が)空港のじゃまだからだ。前なら見舞金も出たのに」といいます。空港は、自治体の住民を見る目も変えたのです。

 しかしと、このリンゴ農民は付け加えます。「ここは害虫を食べてくれる鳥もいる。受粉してくれるニホンミツバチもいる。土地を買ったよ。不動産屋が当て込んだ土地が、空港はもうだめだと投げ出されて1/3の値段だ。わしはここでがんばるよ」

 日本共産党の森しげき県議は、「びわこ空港はムダな公共事業の典型です。県民のみなさんといっしょに、全力でがんばってきた直接請求は、かならずみのらせたい」と話します。

 「びわこ空港」を問う県議会は17日から開会します。