■琵琶湖92cmまで増水。被害各地(1995年5月15日)

 11日から降り続いた雨で、琵琶湖の水位は15日午後四時現在で、平均水位からプラス92cmにまで上昇。1972年7月16日午前6時の記録と並ぶ高水位となりました。湖岸付近では、ポンプによる排水作業が続けられています。安土町下豊浦の江の島団地、守山市古高町で7戸が床下浸水、草津市北山田でメロンなどのビニールハウス20棟が冠水するなどの被害が出ました。

 県は同日午後、琵琶湖の水位を下げるよう琵琶湖の水位を管理する近畿地方建設局に要請。同地建琵琶湖工事事務所は午後2時頃、南郷洗堰(あらいぜき)の10門ある水門のうち1門を全開しました。残る9門は「ドンヅケ」(1門につき2枚ある水門ゲートを両方とも水没位置にする)にし、下流への放流量を毎秒530㌧から約700㌧に増やしました。

 琵琶湖の増水は11日から降り続いた雨によるもの。彦根地方気象台は、「とりわけ記録的というほどの降雨量ではない」としています。10日の降りはじめから15日午後1時までの総降雨量は、彦根で197mm、近江八幡228mm、多賀町霜が原209mm、蒲生で215mm、大津250mm、信楽259mm、土山315mm。同気象台では「雨は峠を越した」と見ています。

 昨年9月のマイナス123cmという史上最悪の低水位からわずか半年の間に、上下2m以上も水位を急変させたことでは、あらためて水位管理の手法が問われる事態です。

 琵琶湖工事事務所では「これだけ雨が降ったので琵琶湖が増水した。下流の河川の排水能力が満杯になる可能性があるので、今後の降雨量、琵琶湖の水位を見て、プラス30cmの調整水位目標に近づけていきたい」としています。

 このほかの雨による被害は15日午後3時現在で、なお県道の葛篭尾崎塩津・大浦線、中河内・木之本線、多賀・永源寺線が崩土、路肩欠損で全面通行禁止となっているほか、今津町天増川地先の町道が土砂崩れで片側通行となっています。国道一号線の逢坂山での通行止め、江若交通の一部区間の運休などは解除されています。

「苗が死ぬ」琵琶湖増水の被害ひろがる

 県消防防災課のまとめでは、水田の冠水は彦根市の254haをはじめ全県で878・25haにひろがり、大津市の南郷で住宅2戸、本堅田で工場1棟が床下浸水。守山市内の湖周道路でも通行止め。草津市や守山市でメロンのビニールハウス61棟が浸水。安土町の床下浸水や漁港では漁船が出られないなど被害がひろがりました。

 高水位に備える湖岸堤が建設されていますが、河川も増水。河口部の逆流を防ぐための水門・ひ門が閉じられた守山市などでは、行き場を失った河川の水があふれ、雨の多かった彦根などでは河川が琵琶湖水面と同じ高さにまで増水してあふれ出しています。

 水資源開発公団は、14カ所に設置した排水施設を稼動しましたが追いつかず、農家は盛り土、ポンプで必死の排水作業を続けています。

 彦根で田畑の冠水状況を調査した日本共産党の手原政良市議は、「公団の排水施設そのものがない地域もある。あっても効率良く機能していない。設計ミスではないか。冠水が続けば、植えたばかりの稲の苗は絶望的。被害補償も要求したい」と話しています。

増水時も後手の水位操作

 昨年の琵琶湖の異常水位低下に続き今回の増水でも、琵琶湖の水位調節対策は後手を取り被害をひろげました。琵琶湖の水位をマイナス1・5mからプラス1・4mまで変動させる琵琶湖総合開発(琵琶総)の水位変動幅させてかまわない範囲だという認識が問題をひろげたといえます。

 滋賀県が琵琶湖からの放流量を増やし水位を低下させるよう近畿地方建設局に要請したのは15日の午後。この日の午前6時で水位はプラス88cm。要請時点では90cm㌢を突破し、家屋浸水、田畑冠水の被害がひろがっていました。要請は知事名ではなく、水防本部長名(本部長は知事)でした。

 要請を受けた建設省近畿地建琵琶湖工事事務所は15日午後2時に、南郷洗堰の10門ある水門のうち1門だけを全開。10門とも全開にしたのは、夜になってからでした。

 15日は、彦根で86・5mmの雨が降り、5月の1日降雨量としては1894年以来の74mmの最多記録を上回りました。「雨量予測は前日にやっとできる程度」(彦根地方気象台)ですが、雨量そのものは、梅雨末期や台風時期に100mmを越えることも珍しくなく、この程度には対応できる水位調整が必要です。

 県や近畿地建の対応が遅れたのは、「下流の河川の通水能力を越える可能性がある」というほか「琵琶総の水位変動幅プラス・マイナス3㍍の範囲内」(琵琶湖工事事務所)だったいう考え方からです。この変動幅は、科学的な検討で設定されたものではなく、琵琶総の政治的決着にすぎないものです。

 昨年の史上最悪の低水位を引き起こした時も、「過剰放流」が指摘されるほど安易な放流が続けられました。

 琵琶湖総合開発は、下流府県の水需要確保のため、ダムのように琵琶湖の水位を変動させるもの。その操作規則がつくられて県は、これまであった警戒・危険水位基準を撤廃しました。

 日本共産党は、琵琶湖の水位管理に上下流の府県や学者などで科学的で民主的な組織を提案し、琵琶総そのものの見直しを要求してきました。昨年の低水位に続く今年の増水被害で、その必要性があらためて実証されました。