■新幹線栗東新駅に関する日本共産党の見解と態度(1994年8月24日)

住民本位で福祉も教育も新駅もすすめるために
    新幹線栗東新駅に関する日本共産党の見解と態度

      1994年8月24日 日本共産党滋賀県委員会

 はじめに

 1981年、当時の国鉄が滋賀県で5カ所の新幹線新駅設置の可能性を発表してから、県下でさまざまのとりくみがおこなわれてきました。県は栗東新駅(栗東町など3市11町)と、湖東新駅(近江八幡市など2市7町)を中心に検討してきました。1988年12月、県会で知事が、びわこ空港強行の思惑もこめて「都市化の著しい栗東町にまず誘致し、湖東新駅は将来の課題とする」との判断をしめして以来、栗東新駅構想に拍車がかかり今日にいたっています。

 県と栗東町は1993年3月に『滋賀県における新幹線栗東新駅の効果と活用』(以下『効果と活用』という)を発表し、新幹線新駅さえ設置すれば栗東町にバラ色の発展があるかのようにえがきだしてきました。町は新駅予定地についても調査していますが、「駅舎予定地はいえない」としながら、予定地と予想される工場移転計画を検討するなどの不明朗な動きも出ています。一方でことし2月、町民をふくめた『東海道新幹線栗東新駅の設置をすすめる会』(以下『すすめる会』)という、寄付推進団体になりかねない組織をつくるなど活発化しています。

 日本共産党滋賀県委員会はこれまで、県民本位の立場で栗東、湖東両新駅設置の誘致運動に参加してきました。栗東新幹線新駅についても、日本共産党町議団は「周辺住民の利便性を高めることから同計画は賛成」という態度をあきらかにするとともに、「駅舎建設に150億円、これに関連した街づくりに数百億円という事業費の大部分を栗東町が負担するとしたら、町財政は破綻し福祉や教育などへの住民要求は抑制される」と、きびしく追及し批判してきました。

 本格的とりくみに入ろうとする今、党県委員会はこれまでの議論もふまえ、現時点の態度をあらためてあきらかにし、「福祉も教育も新駅も」という住民本位の立場での新幹線新駅設置にむけ運動をすすめるものです。

県と栗東町がえがく新駅設置構想の問題点

 新駅構想に関しては『効果と効用』をはじめ、町がおこなった各種の調査と計画が発表されています。

 その基本的観点は「滋賀県(近畿東部地域)は近畿圏における成長地域の一つで、人口および従業者の増加が著しい。またびわ湖を中心とする優れた自然環境を有しており、高い交通利便性、土地の開発余力を備えた成長フロンティアである」(『効果と活用』)と滋賀県を位置づけ、新駅設置をすすめようとしていることです。滋賀県は大企業にとってきわめて魅力にとんだ「成長フロンティア」であるから、彼らのための業務中枢機能やホテル・コンベンション・ショッピングセンターをつくってやろうというのです。新駅の位置づけも周辺整備も、徹頭徹尾大企業中心のものです。そこには関西財界の視点はあっても県民の立場が欠落しているところに特徴があります。新駅さえくればバラ色の栗東町が生まれるとしていますが、バラ色が保障されるのは大企業だけで、住民は重い財政負担を背負わされることになっています。

 県や町は新駅建設は「地元負担100%が原則」といいます。町長は「新駅を設置するからといって、福祉や教育を後退させない」とくりかえしますが、この原則でいけばそうはいかないことになるでしょう。現にことし2月26日に町が開いた『すすめる会』集会で掛川市の元助役が、「私は掛川新駅をつくるために当面はドブ板行政はしないと宣言した。そして市民の一人ひとりから10万円、企業に100万円の寄付をお願いするといって、国会にもよびだされたが、みごとやり遂げた」と話しています。このままでは、新駅で福祉や教育が犠牲にされることはあきらかです。自治体の仕事は地方自地法第二条に例示されているように、住民及び滞在者の安全、健康および福祉を保持することをはじめ広範囲にわたっています。新駅だけ設置しておればよいというようなものではありません。

 新駅はあくまでも県民と町民の利便性と快適性を増進するとともに、町民本位の街づくりをすすめるという立場から検討しなければなりません。周辺整備に関連する費用も、町政全体の投資計画の中に位置づけるということが必要です。県と栗東町の新駅構想は、その位置づけが転倒しているところに根本的な問題点があります。

日本共産党の交通政策の基本と新駅問題

 日本共産党は国民の暮らしを向上させるための、自然や環境を十分に配慮した開発には、住民合意ですすめていくことを基本として推進してきました。その立場から財界の利益のためだけの、乱開発にはきっぱりとたたかってきました。交通政策でいえば自動車交通最優先にかたよった、モータリゼーション化ではなく、鉄軌道・飛行機・船など公共大量輸送機関の充実発展こそが、日本の自然と環境をまもるという観点から奮闘してきました。滋賀県ではびわ湖線全線の複々線化、草津線の複線化、びわ湖環状線の建設などが必要だと考えています。

 新幹線は開通して30年を経過しましたが、その性格は大きく発展変化しています。当初は考えられなかった新幹線通勤がうまれ、多くの企業が新幹線通勤定期を認める状態になっています。栗東町は在来線で大阪まで1時間圏域にはいっています。新幹線新駅ができれば名古屋まで45分、大阪まで25分となって通勤圏域がさらに広がります。21世紀の新幹線は、「地域に密着した中距離輸送モードとしての重要性を増」(『効果と活用』)し、将来的には20㌔㍍間隔で駅舎ができるといわれています。滋賀県の新幹線駅は米原駅しかなく京都駅との駅間距離は68㌔㍍と、東京~大阪間のなかで最長となっています。

 東海道新幹線15駅のうち7駅間の駅間距離は30㌔㍍未満となっています。滋賀県にはいまでもあとふたつの新駅があってもおかしくありません。21世紀を見とおせば、なお必要となっているのです。栗東と湖東新駅の設置をすすめても、決して過大とはいえないのです。党県委員会は、これからも住民本位の立場から両駅の推進を求めていきます。

 その際必要なことは、大企業の利益中心の新駅構想のために町民にがまんをおしつけるのではなく、「福祉も教育も新駅も」という立場をつらぬくことです。これはあとで見るように大企業中心ではなく、住民本位の立場で推進すればできることなのです。

 新幹線新駅をすすめるうえで重要なことはつぎの諸点です。

 第1に新駅はJR東海の施設であり、その建設費用は原則としてJRの負担であることをはっきりさせること、第2にその駅周辺整備は町民の利便性と快適性を高める観点から、町民本位の整備とすること、第3にその計画から実施の段階にいたるまで住民参加と民主主義をつらぬくことです。

事業費負担は国とJRが基本原則

 新駅建設の費用は、「一九九九年開業で、駅舎建設のみで一五〇億円は必要」で「地元が一〇〇%負担するのが原則」(『効果と活用』)としています。駅舎建設に必要な150億円は県(50億円)・町(50億円)・関係自治体と寄付(50億円)でとしています。その他に数百億円の駅前周辺整備費が必要とされています。一般会計の財政規模が年間148億円(1993年度決算)という栗東町で、新駅関係の財政負担を「地元負担一〇〇%が原則」などといってすすめれば、掛川元助役のいうように「当面『ドブ板』政治はしない(つまり住民の切実な要求は聞かない)」で、1人あたり10万円という寄付を強制されることになりかねません。

 JRは「請願駅だから地元負担が当然」といいますが、県下で5カ所の新駅検討を最初に発表したのは国鉄当局です。「ひかり」号の待避駅という国鉄側の必要性もあったからです。また将来20㌔㍍単位に駅が必要になれば、新駅設置は必須条件となることをすでにJR側が認めています。そのとき請願駅はJRにとって必要駅となるのです。さらに駅舎の設置はJR自身の利益となるとともに、JRの財産となるものです。「地元負担が当然」というJRの理由はどこからいってもなりたちません。JRが原則負担をするのは当然です。

 このことは国も認めていることです。地方財政再建促進特別措置法の一部改正(寄付金の支出制限の法人から国鉄を除外しJR新幹線等を追加)に関係してだされた、自治省財政局長の87年3月の通達では「衆参両院の決議にかんがみ、地方公共団体の国鉄にたいする寄付金の原則禁止の趣旨はJRにも継承される」としています。新幹線法では自治体負担を容認していますが、しかしさきの局長通達を補足した自治省財政局指導課長の通達によれば「新駅はあくまでもJR各社の施設であって、JR線利用者のサービスの向上に資するものであること、今後地域の鉄道として関係地方公共団体と密接な連携を保ち、地域づくりに参加することが期待されている。このような趣旨にかんがみ、新駅設置の費用をJR各社がまったく負担しないことは適当でない」としています。したがって「地元一〇〇%負担が基本原則」ということは、改訂後の再建法においても許されないことであると指摘しなければなりません。

 わが党は公共・広域の交通手段の整備は、国とJRの負担が原則という立場から、国やJRの負担で実施することを求めていきます。地元負担を必要最小限で認める場合も、県が栗東町よりも大きな負担をすることは、新駅の広域性からいっても財政規模からも当然のことと考えます。

 また駅舎の建設については、華美・豪華なものではなく、質実・簡素を旨として建設することは当然です。

駅周辺整備は大企業本位ではなく町民本位に

 駅周辺整備について『効果と活用』では、「滋賀県の新しい玄関にふさわしい都市機能をもたせるとして、①業務中枢機能(工業からの転換や機能的な段階的展開の促進)②ホテル・コンベンション(広域的・地域的交通へのアクセス重視)③文化機能・ショッピングセンター(既存市街地との連携)」をすすめるとしています。さらに「琵琶湖リゾートネックレスをはじめとするプロジェクトとの連携強化として①観光情報機能(観光リゾートの案内、イベント情報)②連携機能(バスターミナル・パークアイランドシステム)」の整備をするともしています。観光情報機能や連携機能は当然ですが、滋賀県の新しい玄関としての都市機能については、大企業本位の計画になっていることは一目瞭然です。

 日本共産党は周辺整備については、第1に利便性が高い駅周辺だからこそ、住民が利益を共有できる施設を整備するべきだと考えます。具体的には、病院や老人・障害者のための養護・福祉施設をはじめ、図書館・文化ホールなどの文化機能を充実し、公営・公共住宅の建設、公園、駐車場施設を整備するなど、人が住める街づくりを基本にすすめるべきです。

 第2にショッピング施設なども地元商店街の進出を容易にするものとすることです。ショッピングセンターは、大型店をキーテナントにもってくるのではなく、あくまでも地元商店街の移住をはじめ、地元がうるおう街づくりを中心に考えます。

 第3に駅周辺整備は、金勝山のみえる自然とみどり豊かな街にすることを基本にすすめることを提唱します。駅周辺は高さ制限をきめて金勝山が見えるようにし、駅についたとたん「栗東駅だ」ということがわかるようにするべきです。むやみに高層建築物でとりまいてリトル東京をつくるなどというのは、個性のない街づくりとして21世紀には批判のタネとなるだけでしょう。

 このための投資は大きなものになりますが、それは栗東町民にとって必要な施設などをつくっていく過程であると考えます。

 栗東町としてやらなければならない公立病院や特別養護老人ホーム、図書館や文化ホールなどの施設をつくっていくこととあわせてすすめればよいのです。短期間に集中的な街づくりではなく町の財政規模にみあった計画的な建設をすすめることも一つの方法です。

 県や栗東町が計画している、業務中枢機能やホテル・コンベンション施設などというのは栗東新駅ができ、そこに資本が利益を生み出せる可能性があれば、資本力にまかせて出てくるようになることは目にみえています。そのとき自治体にとって必要なことは、秩序ある進出をさせるという民主的規制の方向(具体的には高さ制限や進出のためのゾーンを定めるなど)で働くべきであって、県や栗東町が計画しているように、そうした力のあるものを誘導するサービスに終始するのが基本ではありません。資本力あるものにこそ、自助努力を求めるべきで、県や栗東町の計画の在り方はそこが主客転倒しているといわねばなりません。

住民合意と納得・住民参加

 新駅とその周辺整備は栗東町の将来にとって重大な影響を及ぼすものとなることは明白です。したがって計画のすべての段階にわたってだれもが参加できる、仮称『街づくり委員会』をつくるべきです。

 仮称『街づくり委員会』は町民にひらかれた組織であること、必要な資料を公開すること、計画の全体にわたって町民の意見が十分に反映される組織でなければなりません。町当局の意向にそった代行機関でなく、それから独立したものにしなければなりません。最終決定は行政と議会の承認・議決によってなされるでしょうが、その決定に町民の意見が反映されるものとならなければなりません。

湖東新駅について

 現在でも静岡県などでは、15㌔㍍から20㌔㍍の間隔で新幹線の駅が設置されており、新幹線通勤時代が強まればつよまるほど、JR自身がすでに認めているように、20㌔㍍圏での新駅は必要、不可欠の問題となります。また京都と米原間の距離が68㌔㍍以上あることから、距離的にも2つの駅の設置は可能ということになります。日本共産党はこうしたことから、びわこ空港よりも湖東新駅をという立場を、県自身が鮮明にしてとりくむべきであると考えるものです。