■「びわこ空港」は白紙撤回しかない 日本共産党滋賀県委員会(1994年3月15日)

 日本共産党滋賀県委員会は15日、「びわこ空港」についての政策・提言をまとめました。「びわこ空港」計画は、県・財界主導で住民無視の計画であると分析、計画の白紙撤回とともに、6月の知事選で「ふたたび県民本位の革新県政をつくる」決意を表明しています。

 びわこ空港計画の白紙撤回を
   びわこ空港計画についての日本共産党の政策と提言

        一九九四年三月十五日 日本共産党滋賀県委員会

 日本共産党は交通手段における近代技術の発展としての空港建設については、当然のことながらその推進をはかる立場を一般的にとっています。しかし日本共産党滋賀県委員会は県の立地条件と交通環境からして、びわこ空港はいらないという立場から一貫して対処してきました。そのすすめ方についても、県・財界主導で住民不在であり、県政の民主的運営という点でも問題があると、県会や各関係市町議会で住民のみなさんとともに白紙撤回を求めてきました。

 稲葉県政はこれまで、びわこ空港を第六次空港整備計画(以下、六空整という)での本格事業に乗せるのだとしゃにむにすすめてきましたが、住民の強い抵抗にあって、「住民合意がない限り強行はしない」といわざるをえなくなりました。これは当然の態度表明のように見えますが、合意するまで話し合うというのは、住民合意のおしつけ以外のなにものでもありません。日本共産党滋賀県委員会は県が一日も早く計画を白紙撤回するように、県民のみなさんとともに全力をつくしてがんばる決意です。

びわこ空港はいらない

 空港建設は全国的にはずいぶんすすめられてきましたが、大都市は別として滋賀県をはじめ東海道新幹線沿線で空港がなかったのには理由があります。空港の採算がなりたつためには東京便が必要です。東海道沿線では東京行きは新幹線で十分まにあい、空港をつくっても採算があわないからこそつくられてこなかったのです。ところが一県一空港の名のもとに、大手ゼネコンがもうかる新しい大プロジェクトとして、静岡県をはじめ東海道沿線でも空港建設計画が財界主導の各種計画でつくられるようになりました。滋賀県の空港も関西財界が中心につくった『すばるプラン』に位置づけられました。同プランでは関西全体で新たに八カ所の空港を建設するとしています。びわこ空港もその一つとして登場してきたのです。必要な空港建設は当然ですが、関西に八カ所もつくるというのは、誰がみても過大な計画です。自然や環境の保護よりも、大手ゼネコンの新たなもうけ口をつくることだけに熱中する、こんな計画は根本的な再検討が必要です。

 県民のなかにも空港を求めるとくべつの声はありません。新幹線・名神などの幹線高速交通網が集中し、近く関西新空港が開港し、大阪、名古屋空港も近いという条件のもとで、県民がとくに不便を感じなかったからにほかなりません。県は「空港がないと滋賀県はさびれる」と強調しますが、県民の心を動かす説得力を持つものになっていないのは当然です。
 財界本位の計画を合理化するために、県自体その根拠づけにこれまで苦労してきました。県はきわめて非科学的な水増し需要予測をして、びわこ空港の必要性を主張してきました。これらはいずれもなりたたなくなり、二転三転のみなおしをせざるをえなくなったという経過のなかに、びわこ空港計画の破綻がはっきりとあらわれています。

 八七年十一月の県最初の需要予測では、二〇〇〇年には五十四便百六十五万人の需要があるとし、ジェット路線が可能なのは北海道など十一路線、コミューター路線が可能なのは、東京便など五路線とし、もっとも需要が多いのは沖縄・北海道・鹿児島・福岡の順で、東京便はジェット便はなりたたないが、コミューターなら可能としていました。それにもとづいて、八八年十一月、臨時県会で、知事は少なくとも沖縄・鹿児島・福岡・北海道の四路線は成立可能と答弁したのです。

 それから半年もたたない八九年はじめには、東京便を一挙に一〇倍の五十八万人にふくらませ、東京便は大型小型ジェット機で一日に四~五便往復が可能となり、東京便をトップにし、二〇〇〇年には年間百三十万人の需要が見込まれるとし、東京・北海道・福岡・新潟の順で百三十万人、十四往復の路線が成立するとしてPRしました。

 ところがその後、九一年十一月二十九日の六空整に予定事業として採択された時の予測では、またしても東京便がぬけおちて、北海道・九州・沖縄等の三路線で年間六十二万人との予測を出しました。この内容ですら、運輸省の鈴木企画調査室長から「荒っぽい予測」「信憑性がない」「もっとやり方をきちっと検討したほうがよい」と厳しい批判を受けているのです。

 県の空港計画は、このような荒っぽい非科学的な需要予測によってなりたっている空中楼閣的なものです。東京便があってこそ採算がなりたつといわれる空港で東京便をつくれないまま、大手ゼネコンの利益のために無理矢理に強行しようとするところに、県の需要予測の破綻が生まれているのです。このような無謀な計画は白紙撤回する以外にありません。

 また現在の需要予測でも、札幌・九州・沖縄等の遠距離便しか成立せず、県内の需要創出策も、リゾートネックレス構想の挫折などで見通しがありません。栗東の新幹線新駅ができれば、東京便はますますとおのきます。需要面から見てもびわこ空港は必要なく、建設しても多大の赤字を県民におしつけるものとなることは目に見えています。当面経営を維持するだけの需要がないびわこ空港は、建設されても福井空港のように、利用されずペンペン草が生えるというのが予想される事態であり、過大な投資はするべきではありません。

県民不在の計画の推進

 つぎに問題にしなければならないのは、びわこ空港計画の成立過程において県と財界が主導して、住民無視で県民に計画を押しつける非民主性です。

 びわこ空港計画は住民のわきあがる要求によってではなく、財界の要求で位置づけられてきたものです。「東京へ行くのに滋賀県からは新幹線しかないので、北海道や九州から東京にいくよりもはるかに時間がかかる」という非科学的な理屈で空港を計画したところにも財界主導が現れています。

 立地選定にあたっても当初八カ所を選定し、さらに大津、甲賀、蒲生・日野の三カ所にしぼりこみました。気象条件もありましたが、基本的には住民の道理をつくした大規模な反対運動によって大津田上地域をはずさざるをえなくなると、今度は蒲生・日野地区が最終候補地になったとして臨時県会で表明し、それをおしつけるという住民無視の姿勢をとりました。こうした強引なやり方が強固な反対運動をうむ根源となりました。

 さまざまのぎまん的なタイムリミット論をふりかざしても、住民の反対運動で環境アセスメントすら着手できず、六空整での本格事業への採択を県は断念せざるをえませんでした。ばく大な予算と人をつけ県庁あげての体制をつくって空港建設をすすめてきた稲葉県政にとって、最大の失政といわれるのも当然です。

 本来ならこの段階で県は白紙撤回をするべきでした。しかし計画撤回どころか、九三年度予算未執行分八十三億円を、そのまま九四年度予算案に横すべりさせました。そのうえ財団法人びわこ空港周辺整備基金から、農村下水道などの地元負担をゼロとする整備事業や、四十戸の集落に十五もの事業をすすめる大盤ぶるまいなど金を湯水のように使って、「アメ」と「外堀を埋め」て、空港建設を既成事実化しようとしています。県民の声を聞く耳を持とうとしない県のこの姿勢に、関係住民が怒りをさらに激しくしているのは当然といわなければなりません。

 地元住民の反対意思はつよく、このまま推移しても、空港用地の買収やアクセス道路の建設、三本の高圧線移設など、建設への展望が開けない状況がつづくことは明白です。これは地元住民が静かな環境の保持を望み、県・財界主導の「空港を核とした街づくり」に同意していないからです。地元では「われわれの反対の意思は変わらないのに、いつまで反対させるのか」という声が高まっています。この声にこたえ、計画を続行することなくすみやかに白紙撤回をするべきです。

 先日運輸省は成田空港の教訓を受けて、空港建設にあたっては、計画策定段階からの住民合意を必須とする、地域との「共生」の方針をうちだしました。このようなときに県が口では県民合意をとなえながら、なお計画を撤回しないで住民合意をおしつけようとしているのは時代錯誤です。

びわこ空港はこんな問題も

 空港建設の財政も問題です。第三種空港のびわこ空港は、建設や維持の面で莫大な財政負担を県は余儀なくされます。約百八十ヘクタールの用地買収をはじめ、三本の高圧線の移設、名神の新しいインターチェンジの設置と、自動車専用道路の建設、空港を核とした街づくりの口実で、大企業の進出を誘導するために、さまざまな公共施設の設置をすすめようとしています。そして本来、空港のあるなしにかかわらずすすめるべき下水道、道路、公共施設などについて「空港のための優遇策」として「特別扱い」をしてすすめています。最近では、まともな空港建設関連の費用すら公表されていませんが、全体で数千億円はかかるだろうとされています。関係市町の財政にも大きな負担をかけようとしています。

 そのうえ需要の成立しない路線を維持しようとすると、兵庫県が丹馬空港に飛ばす飛行機を、兵庫県で購入して航空会社に供与するという、過疎地バス維持対策のような(これが本当のエアバスである)事態を招きかねません。

 その結果、空港の建設と路線の維持に膨大な県費が投入され、福祉や教育などが犠牲にされることは必然といえます。

 空港計画は、大手ゼネコンの金儲けのタネを提供し、空港を核とした街づくり(その一例が地方拠点都市整備法による「オフィスアルカディア」などの計画)の名で膨大な公共投資を推進し、自然に恵まれた蒲生・日野の環境を破壊する大プロジェクト優先主義の典型的な事例というべきものです。

 さらにびわこ空港には飛行機の離着陸のために、航空法で定められている制限表面の問題があります。びわこ空港は空域制限のため西側を飛ぶことになっていますが、航空法では三百六十度全部について障害のないことを要求しており、東側にある丸山と布引山が制限表面に抵触するものと見られます。

 また六空整の計画が実施されると、近畿には神戸空港をふくめ、四つの空港が接近することになりますが、びわこ空港上空にはV-二八、V-二六、V-五九、G-五九七など東西に走る日本有数の飛行路があり、そのまわりに自衛隊や米軍の訓練試験空域があり、高速道路でもっとも交通量の多いところにインターチェンジをつくり、大量の車を高速道路にとびこませるようなものといわれています。これはびわこ空港懇談会で、日本エアシステムの緒方参与もびわこ空港の空域に問題があると指摘していることです。これらの問題点が基本的に解決されないまま、空港計画がすすめられていますが、将来欠陥空港となりうる危険性があります。

調和のとれた県土の整備を革新県政の確立で

 最近、経済界の一部には不況打開のため、リストラ、国際交流を推進するための空港の必要性論も登場しています。このことはびわこ空港計画がどこまでも大企業本位の計画であることをしめしています。県もこれにこたえ、地方拠点都市整備法による地方拠点都市を指定し、空港を核とした街づくりを提唱しています。蒲生野の豊かな自然を破壊しても、空港をつくり工業立地を促進することは、ポスト琵琶総の最大の事業として、自社公民さきがけ連合などが大企業の利益のために推進しているものです。

 滋賀県で必要なことは、大企業の民主的規制で莫大な内部留保を放出させて賃金や下請単価の引き上げ、労働時間短縮による雇用の創出をするとともに、生活関連公共投資の拡大です。日本共産党は「空港がこないと地域がさびれる」式の見解はとりません。空港がなくても地域の自然環境と調和した発展は実現できると考えています。そのための交通網として、生活道路の整備、空港よりは新幹線栗東新駅や湖東新駅の設置、近江鉄道の充実などが必要と考えています。そして自然と調和した街づくりをすすめる観点から、下水道の整備など住民生活に密着した公共施設の整備などで地元業者の仕事を確保するとともに、採算のとれる農業政策の充実と地場産業の育成、公害のない企業誘致の促進などを推進すべきです。なによりも蒲生野の自然と環境を維持しながら、調和の取れた街づくりをどうすすめるかというところで、住民合意をえる努力をすることこそいま県政に求められていることです。

 稲葉県政とその与党である自社公民さきがけ連合は、空港計画の推進に血道をあげるだけで、県民の声をまともに聞こうとしていません。

 近づく知事選挙は、こうした方向に終止符を打つためにふたたび県民本位の革新県政をつくる時です。日本共産党は空港の白紙撤回と、蒲生野の、また滋賀県の県民本位で均衡のとれた県土をつくる革新県政をつくるために全力をつくすものです。

 日本共産党は以上の立場から、びわこ空港白紙撤回と健全な街づくりのために、今後も県民のみなさんとともに奮闘する決意です。