■今こそ大企業のもうけ優先の乱開発をやめ、琵琶湖保全を優先する政治へ転換を(1993年8月20日)
                  日本共産党滋賀県委員会

 わが党は、琵琶湖総合開発再延長に当たって、1991年7月9日に、党国会議員団と党県委員会の共同で「琵琶湖を近畿1千4百万人の『いのちの湖』として現在も将来も守るために」を発表、1・5メートルの水位低下に反対し、下水道建設、総量規制などの水質回復策、さらには琵琶湖の調査・研究体制の拡充を要求してきた。

 それから2年が経過したが、この間、環境を守る住民運動の前進、研究者などによる琵琶湖問題を生態系の保全から捉える必要性の提起があり、琵琶湖のラムサール条約登録、琵琶湖保全制度検討委員会の「提言」の公表があり、今年「琵琶湖国際共同観測年」を迎えた。

 こうしたなかで、「琵琶湖の環境保全を」という県民的合意が進みつつある。国会における環境基本法論議、ラムサール条約締約国会議の成果や琵琶湖保全制度検討委員会の「提言」なども踏まえ、琵琶湖とその流域(全県にわたる)の保全を優先する政治への転換を勝ち取る世論と運動の新たな発展をめざして、今回の「琵琶湖政策」の提言を行うものである。

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 「政策」は第1にラムサール条約の精神に合致したびわ湖の環境保全を求めている。

 政策は「賢明な利用」が、「生態系の自然特性を変化させないような方法で、人間のために湿地を持続的に利用すること」であることを示し、生態系の保全という観点から琵琶湖問題にアプローチする重用性を強調している。

 これは琵琶湖の汚染防止、回復対策はもちろんすすめるが、琵琶湖を取り巻く環境全体の保全という観点を提起したもので、琵琶湖政策の新しい発展といって差し支えない。ただし、この観点は、1985年の湖沼法制定時に、わが党が主張したものの発展であり、全然新しいものではない。

 第2に、「政策」は国に対して、国の義務として琵琶湖環境保全特別措置法の制定と、これに基づく「琵琶湖環境保全計画」の策定を要求している。

 ラムサール条約が「地域的湿地保全計画」を提起したことにも留意し、環境基本法審議に当たってわが党が提起した「国、自治体の環境管理計画」に立脚しているし、現行の「水質保全計画」の抜本的改善を求めるものである。

 また環境アセスメントの法制化、琵琶湖の調査・研究体制の拡充を強く求めている。

 第3に、国が踏み切らない場合にも、県独自に「琵琶湖環境保全条例」をつくることを求めている。

 第4に、国あるいは県が「環境保全計画」に盛り込むべき内容を提起したが、これは汚染防止対策はもちろん、県土全体の開発、利用計画を、琵琶湖環境保全の原則に調和するよう求めたものである。

 生態系の保全という観点は三の2、3で求めているが、さらに琵琶湖研究が発展途上にあり、生態系の研究が今日まで立ち遅れていることもあって、調査、研究体制の拡充を強調している。

 琵琶湖を守るためには、環境保全の基準に経済活動を調和させる原則、環境への負荷の少ない生産構造への転換の原則を実現することがだいじになっており、この観点から総量規制、治水政策、農業政策、リゾート開発の再検討などを求めているが、工業進出については「反対」ではなく、環境保全の原則に調和させる政策を提起している。

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 県、市町議会でもおおいにこの「琵琶湖政策」に基づく対応を当局に要求していくが、国家的事業として琵琶湖保全をはかるため、この滋賀から日本共産党の国会議員を送り出すことが重要で、衆議院議席を実現するための活動を強める。

 同時に、この「政策」についての意見を県民から広く求め、また県民に検討していただくために、9月25日に研究者や住民運動関係者を招いて、「シンポジウム」を開くことにしている。

 「琵琶湖政策」はより充実させたいし、地域の課題を取り上げた住民運動の前進に寄与したいと考えている。



今こそ大企業のもうけ優先の乱開発をやめ、琵琶湖保全を優先する政治へ転換を


       1993年8月23日 日本共産党滋賀県委員会

一、愚かな乱開発による琵琶湖の汚染進行

ラムサール条約と琵琶湖

 先に北海道釧路市で開かれた第5回ラムサール条約締約国会議で、琵琶湖が登録湿地として認定されました。

 ラムサール条約は、水鳥の生息地としての湿地の保護とともに、湿地の「賢明な利用」をも主目的にかかげています。条約のめざす「賢明な利用」とは、「生態系の自然特性(土壌、水、植物、動物および栄養物とそれらの相互関係)を変化させないような方法で、人間のために湿地を持続的に利用すること」(1987年のジャイナ会議)です。

 いままで国と滋賀県は、琵琶湖流域で「賢明な利用」に反する大企業のもうけ優先の開発-愚かな乱開発をすすめ、琵琶湖の汚染を進行させてきました。そしていまも、政府は釧路のラムサール条約会議で環境アセスメントの法制化に反対し、滋賀県はラムサール条約登録にあたって「新たな法的措置はとらない」だけでなく、建設省と水資源開発∥水位低下を確認する「覚書」をかわすなど、なお愚かな乱開発をつづけようとしています。これは琵琶湖をとりかえしのつかない事態に追い込む危険をはらむものです。

 日本共産党は、美しい琵琶湖をつぎの世代にひきつぐために、政府と滋賀県が、湿地の保護はもちろん「賢明な利用」という原則をつらぬくよう、つよく主張するものです。

深刻な琵琶湖の水環境と生態系

 20年来、琵琶湖のCOD、窒素、りんは、北湖のりんを除いていずれも環境基準が達成されないまま推移し、県の「第二次湖沼水質保全計画」(1991~95年度)でも環境基準は達成されないことになっています。

 琵琶湖の92年度水質調査結果によると、琵琶湖の水質は「最悪だった七〇年代の水準に近づきつつある」(県環境室)状態です。琵琶湖の全湖にわたって富栄養化が進行し、微小なプランクトン(ピコプランクトン)の大量発生など湖内の生態系が悪化しています。琵琶湖の汚染と生態系のかく乱によって、魚貝類の生産にも激変が生じ、琵琶湖漁業は危機にひんしています。南湖では一部の底層に無酸素状態があらわれ、北湖は底層で溶存酸素が減少し、CODが毎年0・1ppm(5%)づつ増加するという深刻な事態が指摘されています。

 この間、1979年に「琵琶湖富栄養化防止条例」が制定され、汚染の進行を防止するのに一定の役割を果たしてきましたが、しかしなお琵琶湖の水質と環境は悪化してきました。それは汚濁要因を増やしてこの条例の役割を消し去る大企業のもうけ優先の開発が、歴代の自民党政府と自社公民連合県政によって全県下ですすめられてきたからです。

 県は「ヨシ群落保全条例」を「ラムサール条約登録の先取り」のようにいっていますが、しかし、琵琶湖の自然浄化に役割をはたしてきたヨシ帯は、過去40年間に開発などで半減して、130ヘクタールになっています。しかも長浜市では県の手でヨシ帯をつぶす道路建設まですすめられ、大津市雄琴ではヨシ帯をつぶす都市計画街路が設定されています。そのうえ県は、「修景」に名をかりて保全地域追加指定の予定地である高島町勝野の乙女ケ池のヨシを開発によってつぶしています。これらはラムサール条約のいう湿地の保護と「賢明な利用」に反する愚かな乱開発そのものです。県が建設省との間で結んだ「覚書」も、水資源開発を優先させ、1・5メートルの水位低下で琵琶湖の自然浄化能力をこわし、ヨシの根こそぎ破壊という事態を招くもので、ラムサール条約に反する行為です。

大企業のもうけ優先の開発が琵琶湖汚染の原因

 「水質の保全と回復」を目的の一つに掲げた20年来の琵琶湖総合開発計画は、その目的と逆行する結果を招きました。琵琶湖総合開発計画で、矢橋人工島などの埋立ての強行、湖岸道路の建設などで自然湖岸や湖岸の樹林地が減少し、琵琶湖はコンクリートでかためられ、大量のヨシや水生植物が破壊され、自然の生態系がつきくずされてきました。次つぎに計画されてきたダム開発も、コンクリートばりの河川改修も河川の自然浄化作用をこわしてきました。

 地域開発の名でゴルフ場が急速に増設され、自然が破壊され、比良や永源寺源流など自然の豊かな森林までもこわす開発がすすめられました。野放しの住宅・都市開発、工業団地開発で緑が減り、汚濁負荷要因を増やし、環境保全能力を低下させました。ハイテク産業などの有機化学物質による汚染、地下水汚染も問題になっています。低米価政策、減反政策のもとで、農薬、肥料が多用され、農業排水が問題となってきました。

 こうした大企業もうけ優先の開発、ゼネコン型開発が急テンポで進められたことが、琵琶湖と流域の環境破壊の根本原因となったことは明らかです。

 さらに国と県は、なお琵琶湖総合開発による大規模ダム開発、リゾートネックレス構想による琵琶湖流域の開発、林道整備に名をかりた観光開発、びわこ空港建設、工業開発、住宅開発などをすすめ、自然と生態系を破壊し、琵琶湖の環境をいっそう悪化する要因をつみ重ねようとしています。

二、琵琶湖環境保全特別措置法を制定し、「琵琶湖環境保全計画」を策定する

 環境は個人の所有物ではなく、国民の共有財産です。国民は、琵琶湖が良好な環境のもとに置かれ、将来にわたって「いのちの湖」として存在することで、健康で安全、文化的な生活を営む権利をもっています。そして国と自治体は、琵琶湖の良好な環境を保全し、琵琶湖を次の世代にひきつぐ義務を負っています。

 この基本原則にたって、琵琶湖への汚濁負荷をこれ以上ふやさず、第5回ラムサール会議が声明した「生物多様性保全」の観点から、生態系をまもり、自然の浄化機能を保全し、回復する施策を琵琶湖の全流域にわたって総合的にすすめることが、いま大事です。住民参加、情報公開のもとで、森林、農地、自然環境、風景の保全をふくめた土地利用対策、汚染源対策をすすめ経済活動は環境保全の基準に調和させなければなりません。環境教育の前進をはかることも大切です。

 日本共産党は、この立場から国が近畿1千4百万人の「いのちの湖」・琵琶湖を守る特別の対策、財政措置を講じる琵琶湖環境特別措置法を制定し、「琵琶湖環境保全計画」を策定すること、琵琶湖の環境をだいなしにするおそれのある1・5メートルの水位低下を抜本的に再検討すること、環境アセスメントの法制化をおこなうことを求めます。

 現在、湖沼水質保全特別法によって琵琶湖は「水質保全計画」をたてています。湖沼法制定時に、日本共産党の瀬崎博義代議士(当時)は、湖沼法を「湖沼の水質とその周辺の自然環境を一体のものとして保全する」法律とするよう主張しましたが、自社公民はこれに反対し、「水質の保全を図る」ことに限定してしまいました。このため湖沼法にもとづく「水質保全計画」は、琵琶湖の水質を良くすることができませんでした。

 琵琶湖環境保全特別措置法が制定される以前にも、県独自で「琵琶湖環境保全条例」とこれにもとづく「琵琶湖環境保全計画」、県下における開発行為の「事前アセスメント」条例をつくることを求めます。

三、「琵琶湖環境保全計画」にもりこむべき内容

 日本共産党は、琵琶湖環境保全計画にもりこむべき内容を次のように提案し、その一つ一つの対策を実現するため、県民のみなさんと力を合わせます。

1、下水道整備の促進、総量規制の断行、ハイテク汚染対策などの推進

 琵琶湖の汚染を防ぐために、流域・公共下水道の整備は急務です。

 国は、琵琶湖流域・公共下水道建設のテンポを早める予算を確保し、下水道建設に対する補助基準の改善、琵琶湖関連下水道への補助のいま以上の特別措置をとるべきです。また高次処理が県民の下水道料負担を高める一因となっている現状を改善するため、高次処理のランニングコストにたいする補助を高めるよう要求します。

 工場、事業所の排出するCODの総量規制の導入は必ず実行されなければなりません。同時にハイテク・バイテク産業や新素材産業からの排出物質を掌握し、規制すること、有害物質の排出のおそれのあるものの立地を認めないことが必要です。

2、琵琶湖の環境を保全し、自然の浄化機能を回復する

 森林、農地(田んぼ)、河川、内湖や植生の水質浄化機能は広く認められています。自然のもつ浄化機能を大切にし、回復することは、琵琶湖を守るうえで切実な課題となっています。

 日本共産党は、自然と湖辺の環境を守ることを重視し、次の施策を実行することを提案します。

 (1)人工湖岸をこれ以上つくらず、自然湖岸を回復する計画をすすめる。

 (2)河川をコンクリートばりにすることをやめ、自然を生かした河川改修をすすめ、河川の環境保全、動植物の回復につとめる。

 (3)ヨシ帯を破壊する道路建設などは中止し、すべてのヨシ群落を保全し、積極的にヨシ群落造成事業をすすめる。

 (4)内湖を保全し、すすんで内湖の回復をはかる。干拓地のゴルフ場開発はやめ、干拓地を公有化し、内湖を復元することを検討する。

 (5)農業用水の反復利用などをすすめる。農地の荒廃、肥料、農薬の負荷増大を招く農業の大規模化、「新農政」をやめ、現在規模の営農で成り立つ農業再建政策をすすめる。

 (6)計画中のびわこホール用地をふくめ、琵琶湖の埋立てはいっさい禁止し、また景観を破壊する高層ビルなどの建造を認めない。

3、リゾート・交通開発の根本的再検討と工業・宅地開発の規制

 リゾート開発や工業・宅地開発に伴う水質汚濁要因は、最終的に琵琶湖に集積されます。びわこ空港建設、京津トンネルや湖上交通路、第二名神などの高速道路網の建設にともなう自然の改変もまた、琵琶湖の汚染を促進するおそれがあります。

 現在のアセスメントは「アワセメント」といわれ、開発の免罪符となっており、開発にともなう県土と琵琶湖の環境への影響、さらに開発全体がもたらす琵琶湖への影響が予測されていません。

 日本共産党は、琵琶湖の環境保全を最優先する立場から、大企業本位の開発を抜本的に見直すよう要求します。

 (1)「リゾート・ネックレス構想」を抜本的に見直す。ゴルフ場の新増設を認めず、既設ゴルフ場の無農薬化をすすめる。林道整備に名をかりた観光開発は見直す。

 (2)永源寺第二ダム、丹生ダム開発計画を再検討する。

 (3)住民合意がなく、知事自ら「住民合意なしにすすめない」とするびわこ空港建設計画は白紙撤回する。空港につながる交通ネットワーク計画は再検討する。

 (4)湖上レジャーの過密化と自然の破壊を招くマリーナ設置要綱の撤回を求める。

 (5)開発計画の事前アセスメント条例をつくる。アセスメントは住民参加で厳格におこない、環境と景観をこわす計画は認めない。

 (6)環境保全の立場から、無秩序、大規模な宅地開発を規制する。工業進出は環境保全の原則に調和させる。

4、琵琶湖と自然環境の調査・研究体制の拡充を

 大学の研究者、県立琵琶湖研究所や県環境衛生センターの研究者、技術者が琵琶湖にかんする調査・研究を推進し、行政に反映させてきた功績は大きなものがあります。

 日本共産党は、これらの成果を受け継ぎ、琵琶湖と流域の実態調査と研究体制を強化し、民主的、総合的な汚染防止対策をすすめることが急務であると考えます。

 (1)琵琶湖研究所はもちろん、大学、関係自治体の研究体制充実のため、国が抜本的な援助をおこなうよう求める。

 (2)琵琶湖にかんする国の調査、研究を公開することを要求する。

 (3)国立生態学研究所を滋賀県に設置し、自然と湖沼を研究するネットワークを形成するよう要求する。

 日本共産党は一九七二年の「琵琶湖政策」発表いらい、国会でも県内でも無謀な一・五メートルの水位低下に反対し、琵琶湖の水質と自然環境を守ることを主張し、活動してきました。この立場から「琵琶湖リゾートネックレス構想」やびわこ空港計画に反対してきました。他方、県内で滋賀の自然と琵琶湖を守る多様な住民運動や科学者の研究活動がねばりづよくすすめられてきました。日本共産党は、滋賀の自然環境、水環境を一体として保全し、「日本の宝」であり、近畿一千四百万住民の「いのちの湖」である琵琶湖を守りぬくため、県民のみなさん、近畿の住民のみなさんとともにがんばりぬくものです。